魔法球に魔力を満たそうプロジェクト
魔力測定の結果一覧を見たマルセルは、アデルはうまくやれたようだと安堵した。
測定後、体調を崩すのを心配して様子を見に行った時もブラッスール姉妹は普段通りだった。
結果は平凡中の平凡。本人の望む通りだ。
職員室で試験問題を作っていると、話し声が耳に入った。
「先日は、大変興味深いお話をありがとうございました。生徒達の知的好奇心もかき立てられたことでしょう。それで本日は?」
「副校長先生に先日のお礼を申し上げたところです」
聞き覚えがある。誰だっけ? 何も考えずに顔を上げたことを、マルセルはすぐに後悔した。
ジャマンだった。向こうも同じタイミングでこちらに気がつき、挨拶を切り上げ真っ直ぐに近寄る。
「久しぶりだね、ドブロイ君」
「ご無沙汰しております、ジャマン先生」
「同級生なんだ、先生はよしてくれよ」
握手を求められ、マルセルは仕方なしに立ち上がり応じた。
「妻も元気にしているよ」
聞きもしないのに教えてくれる
「妻」もかつての同級生。そしてマルセルが密かに恋していた女性だった。浮気癖のあるジャマンに泣かされた彼女の愚痴を聞き励ますのが、マルセルの役だった。
いつか愛想をつかすだろうと思っていたのに、そのままジャマンと結婚したから驚きだ。今も彼の悪癖は治っていないだろうと、マルセルは勝手に確信している。
ところで、久々の再会にも話すことは何もないのだが。
「ドブロイ君も研究者の道に進むとばかり思っていたよ」
ジャマンが研究者になると知ったから止めたんだよ、と本当の事を当人に告げたら驚くだろうか。いや、きっと冗談として取るに違いない。返事をすることすらも面倒で、マルセルは曖昧な笑みで済ませた。
「でも、こうやって見ると学校の先生が板についている」
「それは、どうも」
さっさと帰ってくれないか。居合わせた他の教師の手前、素を見せるわけにもいかない。ドブロイ先生は「穏やかで当たり障りがない」のだから。
ジャマンが隣席を指さし「ここに座っても?」と聞く。
「どうぞ」と言うしかない。
座るからには長くなるのだろう。始まる前からうんざりする。
「公的なプロジェクトにしたい案があってね、賛同者を集めているんだ」
「へえ」
「仮に『魔法球に再び魔力を満たそうプロジェクト』と呼んでいる」
同級生だった君だから早い段階で打ち明けるんだ。
小声で付け加えマルセルの反応を待つジャマン。
「詳しく聞かせて」
マルセルは微かに唇の両端を上げた。




