偽装彼氏は秘密の裏技伝授する・1
体の成長が止まったところで魔力測定を受ける。一度測れば後は任意だ。
魔力なしと思われてもいいなら受けなくてもいいが、名門――父に言わせれば――ブラッスール家の長女としては守るべき領民の為にも――領地を失ったので当然領地もいない――魔力測定は必須事項。
膨大な魔力があるのに魔術が使えないとして悪目立ちするのは嫌。かと言ってオデットに渡しすぎて、暖色の瞳を持つ人の最低記録を更新してしまうのも避けたい。
「どうした、ため息ついて」
コーヒーを片手にのんびりと聞くのは、ジェラール。走って帰るはずなのになぜか寄り道して、アデルとオデットが帰るより先に家にいた。
約束はしていなくても、母が家にあげてしまったから仕方がない。
居間は父の友達が来ていて使えず、ならばダイニングでいいと思ったのに「お夕食ができたら呼ぶから、それまでアデルのお部屋にいたら」と追い出された。
食卓についていると、食事はまだかと催促されているようで嫌なんだろう、きっと。
断ればいいのにジェラール先輩も「いいんですか、嬉しいな。ご馳走になります」なんて、良い笑顔をするから「ご馳走は期待しないでね。いつも通りのお夕食ですから」と母が相好を崩す。
父の友人がいても変わらない品数は、今日は増えること間違いなしとアデルは読んだ。
「こら、オデット。お行儀が悪いにもほどがあるわよ。やめなさい」
オデットのベッドと呼んでいる寝椅子の端に座るアデルの膝に頭を乗せたオデットは、反対の端に座るジェラールの太腿を足の爪先でつついている。
それをジェラールが掴もうとして空振りするのがおかしくてならないらしく「きゃきゃっ」と喜ぶ。
叱ればしゅんとして止めるけれど、叱る前に分かって欲しい。
そうそう話が中断した。
「明日魔力測定なんです」
魔力測定とため息の関連が分からないらしいジェラールに、聞いてみる。
「先輩の数値はいくつですか」
在学中に受けるのが通常だから、きっと済んでいるだろう。なんの気なしに聞いて返ってきた数値は、アデルが驚くくらいの高い値だった。
「塩を舐めたから」
それが理由? 思いがけない言葉に、目をパチパチさせると「ほんと、オデットちゃんと似てる」と笑われた。
ジェラールがコーヒーを二口三口飲んで、カップの残量を示す。
「俺だったら、これくらい」
舐めるというより食べると表現したほうがいいくらいの量。
「塩を使うと一時的に数値が上がる。そん時だけ魔力量も実際上がるが、体調が悪いとぶっ倒れる」
「ぶっ倒れる」は「意識がなくなる」という解釈で合っているのか。




