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偽装彼氏から『偽装』が取れたらそれは

 懇親会はティーパーティーだ。と言っても決まった席はなく、飲食する時に適当な椅子に腰掛ける感じのくだけた雰囲気のもの。


 アデルはジェラールを探して歩き回っていた。

内容を教えてもらわなかった裏メニューが気になったからでは断じてなく、本日の講師ジャマンについて実行委員のジェラールなら知っているかと思ってのことだ。



 要注意人物ならマルセルが先に教えてくれそうなものだけど。ああ、でも講義は聞かせたかったのかもしれない。


 視界の端に入るジャマン先生は社交的であるらしく、会場内を歩きながら順に声を掛けている。一度挨拶したら友達と呼ぶタイプとお見受けする。



「ごめん、待たせた」


 注目を浴びるほど響く声を出し、ジェラールが広い歩幅で颯爽と来た。大きな笑顔でアデルの手を取り、自分の腕へとかける。


「な、なに」

 今日に限ってどうしたの。とりあえずされるがままには、なっておくけれど。


「ドブロイ先生と外で会った。アデルちゃんとジャマン先生を会わせたくないから連れて出ろって」


内容が笑顔にそぐわない。


「俺はジャマン先生の控室係で面識ができちまった。『紹介してくれ』って言われたら面倒だ。さ、行こう」


そういう事でしたかと、納得する。でも。


「理由は言ってた? ドブロイ先生」

「ジャマン先生が女好きだからじゃね?」

「…………」


 我が校が誇る――誇るものじゃない――女好きジェラール先輩に言われましても。


「ドブロイ先生とジャマン先生は、知り合いらしいぜ。『顔を合わせたくない』って、俺にアデルちゃんを任せるくらいだから、仲悪いんだろうな」



 魔法球絡みなら、会わないに越したことはない。マルセルが「膨大な魔力」に興味を持ち調べていたことを知る人は、一定数いるだろうから。ジャマン先生もそのひとりというわけだ。



「なあ、アデルちゃん。先生と本当は恋仲じゃないんだろ」


 会場を出たところで聞かれた。今、ここで聞く? とは思ったが、アデルは無言で頷いた。


「言ってくれれば良かったのに」


そう言われると思いました。


「気を遣ってくれたのに、嘘をついてごめんなさい」

「まあ、黙っていようと思った理由も分からんでもない」


 ジェラールは意外にも、物わかりのよいところを見せた。

自惚れと笑われることを承知で言うなら、ジェラールが私に好意を持つ抑止に「マルセルの彼女」が役に立つかと考えもした。



「今後は偽装彼氏から『偽装』が取れるってことで」


 ちゃんと聞いていないと、危うく「うん」と言ってしまうところだった。それじゃ彼氏になってしまう。本当に油断できない。


「そんな話はしてませんよね」

「つられないか」

「あぶなかったですけど」


否定したアデルに楽しそうな笑みを向ける。


「調理室に裏口から入って裏メニューを食おう」


 それ気の利いたこと言ったつもりですか?

意地悪を言いかけて、止めた。ジェラールがあまりに優しい顔をしていたから。


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