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カチカチ先輩と仲良しのお姉さん・4

「ジェラール」


 講演後もリズはジェラールの前に姿を見せた。同じ女子校に通う友人と来ているだろうに、いいのか。




 リズと初めて会ったのは、一昨年の文化講座。彼女から話しかけてきて、その日のうちに夕食を共にした。


 寝たのは三度目に会った時だったか。付き合うかどうかの話は抜きで、なんとなくの流れだ。当然彼女は「初めて」ではなく、手慣れた雰囲気からこの関係を続けるつもりだと、ジェラールは理解した。



 リズの親は名のしれた商会を経営していて「お金はあるから、爵位持ちの妻になりたい」と裸のままで語るのを、特に思うところもなく聞いた。


「会うのはこれきりにするわ」

告げられたのは一年経った頃で、これまたベッドのなか。理由は「男爵家の長男と付き合うことになったから身辺を綺麗にしておきたい」だった。




 会うのはそれ以来のリズが「ふたりきりで話したい」と言うので、誰も用事のないだろう競技場へと移動する。


「俺なんかと居ていいのか? 友達と来てんだろ」

「彼と別れたのは、みんな知ってるからいいのよ」


 せっかく捕まえた男爵家のご嫡男と別れた?

リズの顔に不満が膨れあがる。


「騙されたの。あいつ、長男だって言ったのに次男だった。他から聞いて問いつめたら『どうしても付き合いたかった』ですって。馬鹿にしてるでしょ。その場で別れたわ」



 美人が憎々しげに吐き捨てる様は怖い。扮装と相まって魔女そのものだ。


「それは……なんとも」

言いようがないので、安易に慰める。

「リズなら、いくらでももっといい男が見つかるだろ」



 爵位があるからといって金があるとは限らない。実家の資金力をあてにして、裕福な家の娘を妻にするのは聞く話だ。リズほどの野心的な美人なら可能性はある。



「そう思う?」

潤んだ瞳で見つめられて、ジェラールはなにやら居心地が悪くなった。


 以前ならここからがお楽しみだったのに、正直とても面倒に感じる。が、これまでと正反対の態度も取りづらい。


「賭けてもいい」


 軽く請け合うジェラールの肩から首の後ろへとリズの腕がまわされた。


「ねえ、ジェラール。私今はひとりなのよ?」


――だから? と口にすれば、美しい顔は怒りに歪むだろうと想像する。なので淡々と事実を告げることにした。


「俺は彼女がいるよ」

偽装だけど。


「ジェラールに?」


意味が分からないとでも言うように、聞き返された。


「ああ」

「彼女は作らない主義かと思ってたわ」

「言った覚えはない」

「でも、だからなに? 」



 積極的な女の子が大好物だったのに。煩わしいと思う自分が、自分でも新鮮だ。

胸を押しつける女の子に「離れて欲しい」と思うのも初めてのことで、プライドに配慮した断り方が分からない。

 ひょっとして、抱くより断るほうが難しいんじゃないか?



「あ!カチカチ先輩!」


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