カチカチ先輩と仲良しのお姉さん・3
人生も何度めかになると、人を見る目が育つらしい。と言っても、わかるのは魔法球を求めているか否かだけ。アデルは壇上の講師からさり気なく目を逸らした。
あまり視線を合わせないほうがいい、興味を持たれてはコトだ、と頭の中で警鐘が鳴り響く。
オデットは話がつまらないようで、うとうととしている。目を凝らすとカペルと手を繋いでいるのが見える。
誰かに触れていないとオデットは眠くならない。カペル君は知ってか知らずか良い「仕事」をしてくれた。
講師のジャマンは民俗学者。でもここまで聞く限りでは、魔法球を探すために民俗学的アプローチをしているように思える。
「各地に残る伝承により半ば神格化した魔法球ですが実在します――それも皆さんが思うより、きっと数は多い。偽物ももちろんあります。魔力を使い切り空になったものを祀っている地もある」
使い切ると空になる? 魔法球の魔力には上限があるらしい。
「昔は魔力の引き出し方が口承されていましたが、今は不明となっています。しかし私は旧家の書庫に書きつけが残っていると信じているのです。宝物庫には知られざる魔法球が眠っていても不思議はない」
ふうん。
「そこで、皆さんにお願いがあります。私は魔法球の真贋鑑定が出来る。領地の本邸へ帰ったら、ぜひとも宝物庫の探検をしてください」
ジャマンは誘うように微笑し、全体を見渡す。
「買い取りもしますよ。空であっても値はつけます。ご家族に内緒で持ち出したなら――応相談」
男子生徒を中心に笑いが起きる。この分では本当に家捜ししそうだ。
話術の巧みなジャマン先生が、本当に魔法球の真贋を見分けられるかどうかはともかく、近寄らないに限る。アデルはそう判断した。
講演が終わるとすぐにオデットのところへ行ったアデルを、カペルは予測していたかのように見つめた。
「お姉ちゃま! 一緒にホウキに乗りますか」
「乗らない」
箒の柄で床をトンとするオデットを軽くあしらって、カペルに向き直る。
「カペル君、オデットを連れてあまり人の来ないところにいてくれる? 私と離れていれば、どこでも」
こんな訳の分からないお願いで申し訳ない。
「ジャマン先生ですか」
カペル君の察しの良さは驚嘆に値する。アデルは無言で頷いた。
迎えの馬車が来るのは夕方。ジャマン先生がお帰りになるのが早ければ、それまででいい。
「アデルさんも気をつけて」
真剣な顔で言うと、
「箒で飛べるかどうか広い場所で試してみよう」
なんて、オデットを誘う。
「お姉ちゃまも、行こ」
すぐに行く気になったオデットが、可愛らしく見えると信じている角度でねだる。
「アデルさんは茶話会のお約束があるから、終わるまで僕と待つのは嫌?」
「ちょびっとも嫌じゃない」
「よかった、行こう」
カペル君は本当にオデットの相手をするのが上手。
早くも箒にまたがろうとするオデットを「ここでは、やめて」と止めて、彼に後を託した。




