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カチカチ先輩と仲良しのお姉さん・2

 テーマは「魔法使い」だった。魔法使いはお伽噺のなかの存在だが、扮装するには人気が高いらしい。


 三角帽子とか魔法使いの杖とか。オデットのように箒とか。またがって空を飛ぶらしいけれど、他にもっと安定して座れるものがあるんじゃないかとアデルには思われる。すぐに代わりを挙げられはしないが。



 アデルとオデットはお揃いの短めのガウンを制服の上から着ている。深紫色で魔女の眷属とされる黒猫のアップリケつき。母が作った。


 他の人はどうだろう。講堂で講師の登壇を待つ間に、辺りを見回す。本格的に作り込んだ生徒から、アデルのように雰囲気だけお付き合いの生徒まで幅広い。



 クラスごとに席が決まっているので、オデットとは離れた。ふと気になって探すと……いた。

着席しても箒を立てているので目立つ。注意しに行くべきかと迷ううちに、隣に座るカペルが箒に手を添えて話しかけた。


 どうやら説得に成功したらしい。オデットが名残惜しそうに箒から手を離した。


 カペル君は彼氏ということになっているが、あれではお世話係だ。でもおかげで落ち着いて講話を聴ける。アデルはカペルに感謝して、深く座り直した。








 今日の特別講義は、新進気鋭の研究者として知られるジャマン。専門は民俗学だ。


 高等専門学校の卒業生で、女性教員の強い希望により今年のメイン講師として招いた。理由は聞くまでもなく、ジャマンの容姿の良さ。

ジェラールの見解では、これにつきる。ま、俺ほどじゃないけどな。


 控室にした部屋を訪ねて来るのは、見事に女性ばかり。


「誰をいれてもかまわない」と言われたので、部屋の近くで待機するジェラールは、訪問者の氏名を形式的に確認し通している。



 またひとり、やって来た。複数人で来る女生徒ばかりなのに、ひとりは珍しい。何気なく顔に目をやって「リズ」と名前が口をついた。


「お久しぶり、ジェラール。元気そうね」


 まとう華やかな空気は、一年ぶりに会っても変わらない。魔女っぽさを意識してか全身黒尽くめで、唇は朱赤。肌の白さが際立ち艶めいて見える。



「相変わらず綺麗だ。ジャマン先生に会いに?」

「そう思う? ジェラールの姿が見えないから聞いたら、ここにいるって教えられたから来たのよ」


 微笑みながらジェラールのラペルピンの歪みを直す。仮に歪んでいなかったとしても、彼女はこういった親密さを感じさせる行為がうまかった。



「開始時刻が近いけれど、握手くらいならどうぞ。入ってもらって」


 ジェラールが断っていると思ったのか、部屋のうちからジャマンが許可する。


「ありがとうございます」


礼を言って、「なに?」と不服そうにするリズに耳打ちする。


「民俗学のジャマン先生だ。将来有望らしい。そんで男前だ」


 好きだろ、そういうの。付け加えたジェラールは、リズの体を控室へと押した。


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