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今、明かされる真実・2

「マルセルいたのね」


――マルセル? どっかで聞いた。


「どうかしましたか、おや」


 聞き覚えのある声、休みの日にまで見たくない顔。口の両端を上げてこちらを見返すのは、マルセル・ドブロイだった。



「ね、マルセル。あなたの学校の生徒さんなの。うちを借りてくださろうと、見にいらしたのよ」


にこにことブラッスール夫人が話しかける。


「そうですか。彼なら知っていますよ。こんにちは、ジェラール・ルグラン君」


 笑いを含んだ言い方がひっかかるが、夫人の手前ジェラールは好青年でいなければならない。


「こんにちは、先生」

「ルグランって、あのルグランさん?」



 今気がついたと言うように、ブラッスール夫人が首をひねる。「害虫駆除で名の知れたあのルグランか」と聞いているのだろう。


 ある意味通りのいい名だ。家賃の滞納の心配がないとは、わかってもらえる。



「そうです。そのルグランの息子です」

「あら、うちも時々ネズミが出て困っているのよ」


 ネズミは専門外だが、かつての従業員が独立して通常のネズミ退治も請け負っている。巨大害虫以外も相談されれば、業者を紹介する。

それにブラッスール夫人がお困りなら、自分が引き受けてもいい。



「ネズミなら、僕で対応できますよ」


 愛想よく言うジェラールの目の端に入るのは「『僕』ねえ」と揶揄するような表情のマルセル。もちろん無視だ。



 それにしても。親公認の仲だから、ここに住んでいるのか。

元々の住人で下宿屋の娘と恋仲になったのか。


「アデルが君を選ぶなら」なんて余裕綽々だったのはこういうことか、とこめかみがピリッとするジェラールに対し、マルセルは今も笑みを絶やさない。



「マルセルも知っているなら、よけいに安心ね。それに心強いわ、アデルにお友達ができて。あの子、気が強いでしょう、学校にとけ込めないんじゃないかと心配していたの」


胸を撫で下ろす夫人に、マルセルが微苦笑する。


「アデルなら心配いらないと、常々お伝えしているつもりでしたが」

「身内の言うことは、あてにならないわ」



 女の子は皆気が強いもので、気弱な女の子なんて見たことがないと考えていたジェラールは、危うく聞き逃しかけたが。


「身内?」

「そうなの。マルセルはなんていうのだったかしら、おじいちゃんの子供の子供?」


 言っているご本人が首を傾げているのだから、ジェラールにわかるはずがない。



「はとこ、ですよ」

マルセルが助け舟を出す。

「そうそう、マルセルはアデルのはとこなの」


――親類だったのか。


「存外早くバレてしまったね。ジェラール君の行動力に脱帽だ」


 驚きが勝り、軽く手を打ち合わせるマルセルの嫌味にも腹が立たない。



「君がお向かいさんになるわけだ。これからよろしくね」

「すみません、ちょっと考えます」


 反射的に返すジェラールとニヤニヤするマルセルを、ブラッスール夫人は「あら、借りないの?」と不思議そうに見やった。


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