ジェラール先輩の不機嫌・3
「そんなつもりはなかったんだけどもな」
悪い悪い。ジェラールが機嫌を取ろうとするから、アデルもここぞと図にのる。
「私に対して酷い誤解がありますよね。先輩の本心は分かりました、今後は近寄らないでください!」
「だから、ごめんって」
謝りながら、素早く頬にチュッとする。なにするの、信じられないこの人。
アデルはジェラールの手を胸から引き剥がし、その手でゴシゴシと頬をこすった。ジェラールの唇の感触を本人の手で消す。
「うわ、ひでえ。そこまで嫌わなくても」
「酷いのどっちですか!」
ぐっと睨んだのに、悪びれる様子もない。
「頬にキスは、仲直りの印だろ」
「仲直りしないので、結構です!」
言って、勢いよくジェラールの手を離した。
アデルが思うに、ジェラールの苛立ちの原因はカペル君の火魔術だ。三歳も下の子が経験もなしに大きな害虫と対峙して、難なくやってのけた。
持って生まれた才能の違いにモヤモヤしても当然。
その上カペル君は謙虚で人柄も素晴らしいだけに、問題児のジェラール先輩には存在が眩しすぎる。
気安い私に違う形で不満をぶつけた、それがアデルの見解だ。
吐き出してスッキリしたのか、ジェラールが真顔になった。
「それはそうと、気軽に人助けはしないでくれよ。人を助けて自分が倒れちゃ意味がない」
「先輩、私がしたのは人助けではなく虫退治のお手伝いです。はっきりさせておきますが、前回も今回もここに来たがったのは私じゃありませんから」
悪いのは誰ですか? はい、それはジェラール先輩です。
ジェラールが口を開く前に急ぎ告げる。
「埋め合わせは辞退申し上げます」
「冷たいねえ、アデルちゃん」
口ではそう言いながら、ジェラールの顔からは不機嫌さが消えている。
お兄さん風を吹かせるくせに手のかかるお人だ。
「で、アデルちゃん。ホントのところ、カペル君に手貸したろ」
さり気なく表情の変化をとらえようとするから、油断ならない。
「いいえ」
何度聞かれても返事は同じ。アデルは素敵な笑顔を返した。




