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ジェラール先輩の不機嫌・1

 離れた場所からでも、焦げた匂いで察したらしいジェラールが「見事に焼いたもんだ」と、呆れ半分に誉める。


 カチカチとオデットが鳴らすのは、虫を掴む用の火ばさみ。

「何か持ちたい」とねだったオデットに「これくらいなら」と、ジェラールが渡したのだろう。



 オデットはご機嫌で、黒焦げになった虫を箱に入れていく。

適当でいいと言われたのにきっちり並べているのは、好きにさせておく。


 こんなことに楽しみを見いだせるなんて羨ましい限りだと思うのは、アデルだけではなさそうだ。



 走りに走って暑くなったジェラールは、上着を脱ぎシャツの袖を肘まで捲り上げ、ボタンも三つほど外し風を通して今もそのまま。


 チラ見えを超える肌の露出に、アデルは極力目を逸らしつつ、持ってきた水をテーブルに置いた。


さすがにここで昼食を楽しむ気にはならない。


「ひとりでできます!」


 火ばさみを握って離さないオデットに虫の回収を任せて、他の三人は休憩しがてら待つことにする。



「これやったのカペル君?」


水を一気に飲み干したジェラールが尋ねた。


「はい」

「うまいもんだ。火魔術を続けて使って一気にこれだけの数いけるんだ。羨ましい」


 操作能力の高さと持続力を称賛するジェラールに対し、カペルはどこか居心地悪そうにする。


「先輩のお帰りを待たずに勝手な真似をしてしまって」

「気にすんな。ぼけっと眺めてたら逃げられるだけだ、よくやってくれたよ。オデットちゃんのいいオモチャができた」



 鼻歌まじりに箱に虫を詰めるオデットを、三人揃って眺める。


「和むわ」

「そう言っていただけますと」


 和むと言いながら、ジェラールの顔には僅かに険があるように感じたアデルがこっそりと見直したのがいけなかったらしい。視線がぶつかってしまった。



「カペル君、ちょっとオデットちゃんみててくれるか? アデルちゃん借りてく、すぐ戻るから」


 話ならここでいいんじゃないでしょうか。

ジェラールの有無を言わせぬ調子に、まったく気が進まないながら仕方なくアデルは席を立った。






 オデットとカペルの視界に入らない場所まで移動しての一言めは、いつもより低い声だった。


「カペル君にもしたのか」

「なにを?」

「剣だよ。こっから」


 わかって聞いてんだろ、とアデルの胸に手を当てる。中央の小さな硬い部分を的確に押さえているけれど、手のひらは広範囲に触れているので、親しくない男女には不適切な行為だと思う。


 だって、胸の先端がジンとして腰にくる。尖りの響かない厚い下着で良かった。


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