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引けない戦い・2

目を伏せたカペルがきっぱりと言う。


「――できません」


なぜ? と問う前に。

「公園といえどもひと気のない場所です。女性だけを残して行けません」


なんとも紳士的な理由だった。立派だけど……それは困る。



 揃ってこの場を離れることはできない。テーブルを目指して他の人が来ては、毒虫の被害にあってしまう。

 私が行って残ったオデットが暴走したら、カペル君では止められない。


 考えてアデルは妹の頬を両手で包み、瞳をのぞくようにした。


「オデット、お姉ちゃまのお願いをきいて。ジェラール先輩のところへ行って『毛虫がぶら下がりました』って伝えてくれる?」

「えええ……」


 オデットはアデルを見、カペルを見して、ここを離れたくないと訴える。もうひと押しいるな、これは。


「先輩に伝えたら、すぐ戻って来て。そしたらお姉ちゃま、ものすっごく嬉しい」


 頬をくりくりっとして「かわいい」と言ってみたりする。オデットがその気になった。


「足の遅い先輩を置いて、先に帰って来てもいいですか」


きっとジェラールの方が速いと思っても、言いはしない。


「もちろん。ちゃんと言えたら先に戻ってきていいわ。今までで一番速く走ってね。さあ、行って」



 いつものように額をこつりとする。

それを合図にオデットは唇を結ぶとスカートをひるがえして駆け出した。



 見えなくなるまで見送ったアデルが次にしたのは、バスケットからナプキンを出すこと。

毒針毛を吸ったら大変。三角折りにしてカペルに手渡した。


「これで鼻と口を覆ってください」


言いながら自分が先にして、やり方を見せる。



 後はジェラールの戻りを待つだけ。虫が片付いたら、お昼は馬車のなかで食べて……今日はもう帰りたい。


 バスケットの隣にいるアデルより少し前に立つカペルは、この半年で背が伸びた。同じくらいだったのに、すぐに見おろされるようになるのだろう。


 少年らしい薄い肩もきっと厚みを増す、ファビアンのように。

――ファビアン? カペルの背中を眺めるうちに、何年も思い出さなかった名が頭に浮かび、自分でも戸惑う。



 不意に風が吹き木の葉を揺らした。ハッとして注目すれば、毛虫も揺れている。

 結構な大きさで重そうに揺れるから、細い糸が自重で切れるのではないかと心配になる。

落ちて四方へ散ってしまったら、厄介だ。


そうしてこういう懸念は、往々にして当たるもの。


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