初デートはドキドキがいっぱい・3
オデットのつたない表現力からしても毛虫だろうと思うけれども。触れようとするところが、オデットの恐ろしいところだ。
「毒蛾の幼虫がいる」
アデルの予想通りの展開になった。だから来たくないと言ったのに。もっと真剣に反対すればよかったとの後悔は次に活かすしかない。
「大きさは?」
「通常の二十倍。普通一枚の葉にびっちり十も十五も並ぶもんだが、こいつは一匹でも葉よりデカくて枝まではみ出してる。いるのはこの木だけっぽいけど、ざっと見、三・四十匹ってとこかな。うじゃうじゃ」
後ろで木の嵩が増したように感じるのは、気分的なものだろう。アデルの嫌気は間違いなく増加した。ついでに言うなら、ジェラールについての好感度は低下した。
「毒蛾の幼虫の毛は、風で飛んできても肌につくとかぶれるそうですね」
「詳しいね、カペル君。その通り」
ムカデを片付けたからこの場所には巨大毒虫はもう出ない、安全だ、と言った人は誰?
はい、偉そうにカペル君に先輩風を吹かせているジェラール先輩です。
なんてひとり遊びを脳内で繰り広げるアデルを、オデットがつぶらな瞳で見上げる。お姉ちゃまにくっついていればどこでも幸せな妹を、毒針毛まみれにするわけにはいかない。
――どうします?
アデルの無言の圧を受け、ジェラールが悩みどころだという風に顎に手を添えた。
「ここに来なきゃ、見つけなかったもんだ。場所を変えてピクニックを続ける……か」
カペルの表情が少し硬くなるのを見て、ジェラールが次の案を出す。
「ピクニックを中断して親父達に知らせるか。それだと片付けるのは早くても明日明後日になる」
ジェラールの歯切れがいまひとつなのは、言いたい言葉を飲み込んでいるから。そして、ここで自分が言わなければ彼からは言い出さないのだと、アデルにもわかる。
昔から毛虫は嫌い。街なかの庭木のない家って最高だと喜んでいたのに。
でも、毛虫は小さいうちのほうが片付けやすいと知っている。なにしろ前世では農婦でしたから。
「先輩、今日の馬車、営業車って言いましたよね」
「うちの馬車は全部仕事用なんでね」
座席の下は物入れになっていて、後部は外から開けて物を出し入れできる造りで、屋根の上にも道具箱のようなものが固定されていた。
「今日は空いてたから」と、そんな二頭立て特殊車両で迎えに来たので、オデットの喜びようといったらなかった。
ちなみに現地集合のカペルが乗ってきたのは高級車だ。




