初デートはドキドキがいっぱい・2
害虫駆除を生業としていると、遭遇率が高くなるのか。それとも害虫とお近づきになりやすい体質があって「それならいっそこれで食ってくか」となるのか。
ルグラン家の歴史を知りたいアデルだ。
「先輩、私になにか恨みでも? お出かけのついでにお仕事を入れてますか。違うのかな、お仕事のついでにワタクシたち昼食だけご一緒するお話だったかしら」
私、勘違いをしていました。先輩はお休みの日はお仕事をする模範的な勤労学生でいらっしゃったんですね。すごい、すごいわあ。
よい笑顔を作るアデルから目を逸らし、ジェラールは天を仰いだ。
「冗談きついぜ、アデルちゃん」
いかにも野外らしく風雨にさらされて味のある灰色に変色した木のテーブルに、ジェラールがバスケットを置いたのが先ほど。
グラスや皿などを出すのはジェラールとアデル。
「オデットさん、どうかした?」
カペルの声のした方を見ると、オデットが樹の下にしゃがみ下から葉裏を覗いていた。あまりに真剣になりすぎて、寄り目になっている。葉裏なんて面白いとも思えないのに。
「毛がふわふわでしましまの黒くて丸々したものが葉っぱについてます。触っていいですか、お姉ちゃま」
言う端から指を伸ばして突付こうとしている。
「触るな、オデットちゃん! すぐに離れろ!」
ジェラールが大きな声を出した。何ごとか起きたかと指を急いで引っ込めたオデットは、きょとんとこちらを見たまま。
その呼びかけでは、オデットは来ない。
「おいで、オデット。お姉ちゃまのところへ」
アデルが両腕を広げると、瞬時に駆け戻って抱きつき、頭をぐりぐりとすりつける。
「お姉ちゃま、会いたかったですか。オデットは会いたかったです」
いえ、今日は「おはよう」を言ってから一度も離れていませんが。寂しくなる間なんて、ちょびっともありませんでしたよね。
オデットの脇を通りすぎるジェラールは、テーブルクロスにするために持ってきた布を腕に巻き付けそれで口元を押さえていた。
「なんてこったい」
布によりくぐもった声で、他にもいくつか罵りが聞こえた。――お育ちがよろしくない。
ぐるりと木を見て回り、カペルにも下がるよう合図する。何があったのかと待つアデルに深刻そうなため息を漏らした。
そんなのはいいから、ふわほわ黒丸の正体をさっさと教えて欲しい。
アデルは思いきり凶悪な顔をして、ジェラールを睨んだ。




