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偽装彼氏についてマルセルと語る

 カペル君とジェラール先輩が「私達の彼氏」になったことは両親に言わない。アデルはオデットに、そう口止めした。


「なんで」という顔をするオデットに「出掛けるたびに、口うるさく言われたくないから」と説明しても、わからないと小首を傾げる。


「お姉ちゃまとオデット、ふたりだけの秘密にしよう」


 これには大きく頷いた、しかも嬉しそう。長いつき合いなのにオデットの心に響く言い方がまだ飲み込めていないアデルだ。







 マルセルは翌々日には「ルグラン君とつきあっているんだって?」と、珍しく部屋までからかいに来た。

オデットがもう寝ているので、マルセルは廊下アデルは開けた扉の内側での立ち話だ。



「誰のせいだと思ってるの?」


 浴室から出たばかりらしい濡れ髪のマルセルに乾いた布を渡しながら、睨んでやる。


「それ僕のせいになる? おばさん達には話したの?」

「まさか。先輩の卒業までの半年だもの、学校のなかだけの話だし」


 わざわざ言う事でもない。カペル君については相手がオデットなだけに問題外だ。



 アデルの渋い顔を可笑しく思ったらしいマルセルが、くすりと笑う。


「ルグラン君は気に入ってそうだったけどね、アデルのこと」



 それは巨大ムカデを退治した時に、剣を出してみせたから。魔法球に惹きつけられる男が多いのは、身をもって知っている。そのせいで少なくとも三度は早死にした。


 ジェラール先輩は魔法球の存在に気付いていない、それが救い。ムカデ退治の後、執拗に胸の辺りを撫でていたのは無視しておく。



「ただの女好きだと思うわ」


 マルセルには剣を出したことを黙っているので「このせいよ」の胸を指すことはできない。

アデルの返答にマルセルは笑んだ。


「まあ、困ったら教えて。なんとでもする」


 マルセル先生で「困って」ジェラール先輩が「助けてくれた」のに、先輩に困らされたら今度はマルセルに? 頭が疑問符で埋め尽くされそう。


「うん」

アデルは無難に返してこの会話を終わらせた。




 オデットの昼訪問については週に一度に減らすことにした。

あまり能力を伸ばすと消費する基礎魔力量も増加するらしい。知識の使い方を学習させて磨く時期にきた、というのがマルセルの考えだ。


「偽装彼氏に誘われたら、オデットを連れて出掛けるといい。見慣れないものを見て、アデルをお手本にして真似るのはオデットのためになる」


 マルセルがそう言うなら。アデルは承知したと頷いた。


 じゃこれで、と自分の部屋に戻るために階段に足をかけたマルセルが顔だけをアデルに向ける。



「僕に結婚の予定はこの先もないから、アデルとオデットの将来の心配はいらない。無理に相手を探そうと焦らなくていいんだよ」


 アデルが安心するような微笑を浮かべ、マルセルは「おやすみ、小さなアデルお嬢さん」と階段を降りてゆく。 


「おやすみなさい、お兄ちゃま。ありがとう」


 アデルがそっと口にしたのは、ひとつ下のマルセルの部屋の扉が閉まってからだった。


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