偽装彼女の心得・2
ジェラール先輩があまりに親身になってくれるから、マルセル「先生」は遠縁の下宿人で昔はお兄ちゃまと呼んでいましたと、本当のことを打ち明けづらい。
アデルが口ごもっているうちにジェラールが話を変えた。
「カペル君はもらい事故みたいなもんだったな」
彼のほんのりと色づいた頬を思い出す。
「よく話にのったよなあ。まあ、あの場で女のコに恥をかかせちゃならないと思ったのが、一番の理由だろうが……オデットちゃん込みのブラッスール姉妹に好意を持ってるのは見てわかる」
ふっと笑う顔が大人びて感じられる。これもまた返答しづらいアデルだ。
「オデットちゃんが『みんなでデートをしましょう』と張り切ってたな」
「どこで『デート』なんて覚えたんだか」
アデルの困り顔を眺めるジェラールは楽しげで、困っていない。
それはそうと、なりゆきの偽装彼女として言っておくべきことがある。念の為に、とアデルは膝の上にのるオデットの頬から耳を手のひらでおおった。聞かれてまたヘンな知識を他で披露されては大変だ。
「ジェラール先輩、彼女はひとりっておっしゃいましたが、半年も禁欲生活に耐えられますか」
瞬時にジェラールの口角が下がった。やはり悩みどころだったのか。
「学内でなければ、今までのような生活を送られてもきっとわからないと思いますよ?」
今までのような――女の子と同意の元いちゃいちゃしても、ってこと。モテる男子は不思議なことにモテることで、よりモテる。
「――アデルちゃんは、それでいいのか。 俺が他の女のコといて少しも気にならない?」
微妙に肩をいからして言われると、何か失礼だったかと心配になるけれど、アデルには心当たりがない。
「俺は確かに女のコが好きだけど、彼女がいて他の女の子と遊ぶなんてことはしねえよ。どっちにも悪いだろ。俺をそんな男だと思わないでくれ」
ええっと……複数とふしだらな関係を持つのはやぶさかでないと公言していらしたのに、そこでカッコよく言い切られましてもね。ムッとされる意味がわからないなりに、私もハッキリさせておかねばと、顎を一段上げる。
「私、偽装彼女ですので、下半身のお世話はいたしかねます」
「すっごい言い回し」
目を見張ったジェラールに声を上げて笑われたけれど、かまうものか。
「偽装じゃなけりゃいいのか、って本命は別にいるアデルちゃんに言うのは意味ないな」
アデルの膝頭に力が入るのは、ジェラールが思わせぶりな目つきをしたせい。
「警戒心いっぱいの顔は、オデットちゃんとよく似てる」
からかわれてぷいっと横くアデルをジェラールの笑い声が追いかけた。




