ブラッスール姉妹の初彼氏・6
これでは要領を得ない。
「カペル君、カペル君にひとりの彼女はいますか?」
ますますわかりにくいオデットの質問に、カペルがうっすらと頬を染める。やっぱり最強は美少女ではなく美少年、アデルと同意見な女子は多いと思われる。
皆が固唾を呑んで返答を待つ。
「いない」
照れ顔の破壊力たるや! アデルだけでなく、ジェラールまでもが見つめている。唯一動揺しないのがオデットだったらしい。
「私、カペル君の彼女になります!」
ハキハキと宣言した。彼女になるのって言ったモン勝ちだったのね、知らなかったわ。などと思うアデルの隣でオデットが自分の売り込みを図る。
「私が彼女になったら、時々ほんとに時々だけどカペル君をお姉ちゃまのお膝に座らせてあげます」
聞いている全員が様子を思い浮かべる顔つきになる。「カペル君の膝にお姉ちゃま」ではなくその逆。で「カペル君の彼女はオデット」。
アデルだけは「いつも膝を独占している妹にしては、信じられないくらいの譲歩」と驚いている。
「お姉ちゃまの一番は私だけど、二番はカペル君でいいです」
「いやいや、二番は俺だろ」
「だから、オデット相手に真面目に返すのは止めてください」
ジェラールまで参加しては、ますます収拾がつかなくなる。即座にこれ以上の発言を制止する。
「お姉ちゃまと手をつなぐのは私だけど、空いているほうの手はカペル君がつないでもいいです」
どう? 嬉しいでしょう? と、なにやら特別感を醸しているオデットには気の毒だけれど、カペル君にはなんのメリットもない話である。
発想のずれた妹をどうしたものかと考えあぐねるアデルに、ジェラールがささやく。
「そろそろ止めないと、暴走するぜ、オデットちゃん」
まったくもって正しいご指摘。「束縛系の姉」と言われることを気にしている場合じゃない。アデルが一呼吸して――
「僕でよければ」
咳払いしたカペルが、早かった。
「よく考えよう?」
思わず止めたアデル。
ヒュウと口笛を吹くジェラール。
「僕でよいです!」
アデルのお腹に抱きついたまま、満面の笑みを浮かべるオデット。
「お姉ちゃま! 私も彼女になりました! お姉ちゃまの一番の仲良しは私です」
アデルにしてみれば、耳まで赤くして視線をそらすカペル君には、申し訳ない気持ちしかない。
「ジェラール先輩、お任せしたらこうなりましたけど」
狙い通りの結果ですか、これ。どうしてくれるの? と圧を強めて微笑すれば、ジェラールがお手上げという仕草をする。
「酷なことを言うなよ、アデルちゃん。オデットちゃんの登場は想定外だって。とりあえず今日は一緒に帰るか、打ち合わせがいるだろ」
私は偽装彼女、オデットは押しかけ彼女でなければ無理矢理彼女。
男女交際ってこういうものでしたかね。アデルは大きく息を吐いた。