ブラッスール姉妹の初彼氏・5
前傾姿勢を維持したままオデットが突っ込んできて、アデルに抱きつく。
あまりの勢いでお腹に衝撃が。後ろからジェラールが支えなかったら、半歩よろめいただろう。アデルは本日初めてジェラールに感謝した。
見える範囲で、オデットがひとりふたりぶつかって謝りもしていないように見受けられたけれど、気が付かないフリをしておく。
「坊っちゃんじゃないワルイ先輩!」
オデットのなかではジェラールは「悪い奴」。キッと睨みつける。
「オデット、落ち着いて」
アデルは頭をよしよししてなだめた。さっきは脳内でオデットに光の球を作らせたが、本当に投げつけたりしたら大問題。今にも指をすり合わせそうだ。
「またまた嫌われたな。大事なお姉ちゃまを彼女にしちまったから、仕方がない」
ちょっと、先輩。その軽口はやめてもらえますか。アデルが咎める視線を向けてもジェラールは「さすが姉妹、角度までそっくり」と意に介さない。
「彼女、『彼女』ってなんですか」
警戒したまま尋ねるオデット。
「一番の仲良しってこと」
アデルの思う「彼女」は「愛人か恋人」を意味するが、ジェラールの彼女は違うらしい……ではなく、オデット仕様の言い換えなんだろう、たぶん。でもそれでは。
「え! お姉ちゃまの一番は私です! 私をお姉ちゃまの彼女にしてください!」
オデットには通じない。
「あのね、ちょっと違ってて。私がジェラール先輩の彼女って話でね」
本当はそれも違う。アデルの説明にオデットは今度は分かったという顔をする。
「私もお姉ちゃまと一緒がいいですっ。ワルイ先輩、私も彼女になります!」
「ごめんな、オデットちゃん。彼女はひとりの主義なんだ。彼女じゃなけりゃ複数同時進行はいつものことだけど」
後半は言わなくてもいいと思う。正直かつ不実な男だ。
「先輩、オデット相手に余計なことを言わなくても」
「悪い、調子が狂った。とにかく彼女はひとり」
苦情を述べるアデルに、軽く顎を引いて謝る仕草をするジェラール。
「お姉ちゃまと一緒がいい!」
「オデット、それ以上ぎゅうぎゅうすると私のお腹が潰れるわ」
聞き分けのない妹をどうしたものか。一難去ってないうちにまた一難。ジェラール先輩に責任を取らせたいとアデルが思案していると。
「ブラッスールさん、教室に戻る時間だよ」
救いの神が現れた。その名はフレデリック・カペル。美少年の姿をした回収の神に勢いよく顔を向けたオデットが、熱く訴える。
「カペル君! お姉ちゃまが彼女になったから、私も彼女になりたいです!」




