ブラッスール姉妹の初彼氏・4
「で、ですが。先生のご迷惑になりますし、特定の生徒を贔屓するのは――」
「迷惑だったらハッキリ言いそうだけどな、ドブロイ先生は。それに勉強熱心なコが助言を求めれば、選り好みせずに教えてくれると思うね」
いい事を言うジェラールは、いつもと違って見える。でもこんな風に庇ってくれるのは端から見て不自然では? と思わないこともない。
「私達、ブラッスールさんは先生と私的な関係にあると思っています」
意を決して踏み込んだ発言をしたのだと、厳しい目つきににじませる二年生。やっぱりそっちに取ってましたよね、と思うのはアデル。
「私的な関係」
笑いを含ませて復唱したジェラールは、持って回った言い方をからかっているのだろうけれど、余裕を感じさせる。
「ない」
きっぱりと言い切ったのは、アデルではなくジェラールだった。そして。
「アデルちゃんは俺の彼女だから」
「え!?」
「ほ!?」
誰が誰の彼女ですって? アデルの驚きはこれまで生きてきたなかでも最高レベルで、その証拠に一声も発することができなかった。
いつそんな話をしましたか、私が彼女であるとするなら私の知らないうちに彼氏ができるなんてこと、あるんですかね。
咎める視線を向けても、ジェラールは見たこともない胡散臭いキラキラした眼差しで「ここは俺に任せとけ」と笑みを返してくる。
任せるのも恐ろしい、だからといってここで放り出されても困るアデルにできることは、一刻も早く収拾をつけて欲しいと頼むことだけ。
頼む先がジェラールなので、少しも安心できないけれど。
ジェラールがアデルの肩を抱き直した。
「先生んとこ通ってるのも聞いている。向上心があるのは良い事だと思うね。彼氏の俺が気にしてないんだ、部外者が口出しすることじゃない」
ええ、今「彼氏」って言いましたね。一度なら聞き違えたかと思ってくれても、二度となると「彼女アデル・ブラッスール、彼氏ジェラール・ルグラン」と確定してしまう。
案の定、どこからか声が聞こえる。
「ル、ルグラン先輩に彼女?」
「うそ……」
女癖が悪くて――ではなく、恋多き遊び人でも、青系の髪と瞳が爽やかさを演出するちょいワル先輩には、需要があったらしい。
さらに遠くから叫び声が響く。
「お姉ちゃま――っ」
「オデットちゃんだな」
「ですね」
孤軍だったさっきは「オデットでもいいから、なんとかして」と思ったけれど、この状況では来てくれないほうがいい。
たが、もう遅い。




