ブラッスール姉妹の初彼氏・3
アデルの脳内では指先に光の球を作ったオデットが「えい、えい」とぶつけている――どこの誰に、とは言わないが。
膠着状態を打開するすべがさっぱり思いつかない。それはもうオデットを呼んでしまうくらいだ。
――逃げ出すきっかけをくれるなら、この際誰でもいい。
「よう、アデルちゃん。帰りまで待てなくて俺に会いに来ちゃった? でもここ二年生の階だぜ。俺んとこはもうひとつ下」
後ろから馴れ馴れしく肩に手をかけられた。考えなくても「アデルちゃん」と呼ぶのはひとりしかいない。ジェラール先輩だ。
「だぜ」って、あんまり言う人がいないけれど、似合い過ぎて……なぜかしら恥ずかしい。それにジェラール先輩の登場は想定外も想定外だ。
などと無言のうちに思うアデルにかわり声をあげたのは、二年生女子だった。
「ルグラン先輩!」
「なんの話? 」
それは誰に聞いているのか。「先輩に会いに行こうとしていた(事実とは異なる)アデルを引き止めたのは『なんの話』」なのか、「わざわざ昼休みに俺に会いにくるなんて(事実とは異なる)『なんの話』」か。
返答に迷ったアデルが、とりあえず表情を確かめようかと首をひねって見上げると、ジェラールは「俺に任せろ」と言わんばかりの笑みを浮かべた。
それ、逆に心配になります。という気持ちを込めて、肩に置かれた手を払おうとしてもまったく効果はなく、むしろしっかりと腕をまわされた。
「そんな……大げさなお話では」
言いよどむ二年生は、俺が聞こうじゃないかとお兄さん風を吹かせるジェラールに促されて、告げ口する気になったらしい。
「ドブロイ先生のお部屋にブラッスールさんが、度々行かれていて」
ちらりとアデルに目をやり、ジェラールに訴える。
「誤解を招くような行動は慎むべきだと思い、まずはブラッスールさんのご事情をお尋ねしたのです」
言いがかりをつけたのではなく、あくまでも上級生として非常識な下級生に説明を求めたのだと主張する。
「『ご事情』ねえ。で彼女は、なんて?」
「授業についていけないので勉強を見てもらっている、と」
まったく信じられないとでも言いたげに口をすぼめる二年生に、ジェラールは二度三度と頷いた。
「本人が言うなら、そうなんじゃないの」
あまりにあっさりと肯定するから、二年生だけでなくアデルまで目を見張った。




