ブラッスール姉妹の初彼氏・2
部屋を訪ねる時は、ふたりきりでなくオデットが一緒。オデットをマルセルに預け、アデルは数分で退出することもある。
問題は窓の位置が高いこと。マルセルのいる部屋の廊下の窓は、アデルの肩より少し高い。向かいの棟から見ると、背の低いオデットの姿は見えない。
そして迎える時にマルセルはオデットの為に少し膝を折る。離れた場所から目撃すると、アデルの頬にキスをしたように見える……かもしれない。
昼休みに毎日のようにオデットを連れて行って大丈夫だろうかと、当初は気にしていたが、誰からも何も言われないので気を抜いていた。
一年生の教室からは見えなくても、二年生の階からはよく見えたか。
オデットの教育を家ですればいいと思われるかもしれない。しかしオデットの睡眠時間は十一時間。マルセルが帰宅する頃には、もう寝ている。
眠た眠たでは身につかない。というわけで、この昼休みの教育が必要なのだった。
言われたのが苦情なら「すみません」で済む。「もう行きません」は嘘になるからダメ。
でも「深い理由があるのよね? その理由を教えて」と言われたから、それらしい理由が必要だ。
はとこであると隠すつもりはなかった。それを何気なく父に話したところ、
「試験問題をあらかじめ教えてもらっているんじゃないか、なんて言い出す輩が出てくると思うよ。オデットとセットのアデルは、良くも悪くも目立つからね」
自然に知られるのは仕方ないが、そうでなければ言わずにいたほうがいいんじゃないか。父の意見はもっともだと思った。
「学業に遅れがあります事を先生に相談したところ、できる範囲で協力すると言ってくださったので。もちろん私だけでなく、どなたにも同じ対応をされると存じます」
「――相談」
眉をひそめて言われては「相談」が不適切な行為のように聞こえる。「悩みを打ち明ける」より「相談」の方が親密度が低いかと思ったのに、言葉の選択を誤ったらしい。
ほとんどの生徒が通り過ぎるなか、成り行きが気になるのか、立ち止まり遠巻きに眺めている人もいる。
声をかけてきた二年女子二人組が納得していないのは、無言で見つめるという態度からもよくわかる。
でも、アデルにはこれ以上話すことは何もない。もういいかな。
「失礼いたします」
浅く一礼し、立ち去ろうとすると
「まだ話しているのに、それはないわ」
止められた。
――時間の無駄。アデルの表情に露骨に出たらしく、二年生の口元が引きつった。
面倒ごとの香りが強くなる。
普通に学校生活を送りたいのに、普通って難しい。




