ブラッスール姉妹の初彼氏・1
キャロットケーキのお礼にとカペル家からドライフルーツをたくさんいただいた。
フルーツケーキに使えると、母は大喜び。ドライフルーツも買うと高いらしい。
父はオデットから「お姉ちゃまの剣がカペル君を圧倒した」と聞き、満足していた。
「カペル君『次は別の剣も用意しておきます』って、負ける気まんまんだった」
オデット、そこは「やる気満々」よ。もとからオデットの話を真面目に聞いていない父は訂正もせず。
「よし、しっかり稽古をつけてやれ。アデル」
その「稽古をつける」は「かわいがる」と一緒で、含むところがある。父は交流することが気に入らないのではなく、ウチが対等に扱われれば文句はないらしい。
賭け狂いだった曽祖父が賭けをもちかけ負けただけで、カペル家に騙されて巻き上げられたわけじゃない。「敵対する両家」ではないのだから、丁重なもてなしを受けると分かった今、子供同士の付き合いに口出しはやめると決めたのだろう。
父が黙認するなら、カペル家のお菓子は美味しかったから、カペル君に誘われればまた剣の相手を務めるつもりだ。
昼休みも終わりに近い。オデットを教室まで送り届けたアデルは、音楽室へと移動していた。
二年生の団体と出くわす。何人かこちらを見てヒソヒソと話しているようだが、早く通り過ぎて欲しい。でないと、ずっと廊下の端に寄って待機することになる。
と、二人の女生徒が団体から抜けてアデルのところまでやって来た。
これはトラブルの予感しかしない。顔を見ればまったく見覚えのないふたりだった。
それでも挨拶は下級生からしなくてはならない。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう、ブラッスールさん」
相手はアデルを知っていた。
「少しいいかしら」
これも嫌とは言えない。
「はい、ですが音楽室へ行く途中でして」
「私達も移動中よ。少しお尋ねするだけだから、お時間は取らせません」
そこまで言われては、頷くしかない。次に口を開いたのは、もうひとりの二年生だった。
「ドブロイ先生のところへよく通っていらっしゃるようだけれども、先生のお昼の時間を奪うのはご迷惑よ? それに、ふたりきりでお部屋にいるのはマナー違反にあたるわ。伯爵家のご息女なら当然ご存知のはず。何か深い理由があってのお振る舞いかと、お尋ねしたくなったの。言いにくいことでしたら、ごめんなさいね?」
親切なご忠告と嫌がらせの境い目、もしくはマルセルに好意を寄せていらっしゃるか。あとは正義感。