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カペル家のお茶会でアデル暴れる・9


 昔「家の目立たないところに子供でも扱える剣を護身用として置きたい」とねだるアデルに父は目を丸くした。


「そうそう強盗が押し入ることもないと思うよ、うちは住人が多いから」

やめておこうと言う父に、来る日も来る日もねだって、先に折れたのは母だった。


「防衛意識の高い女の子なんて、素晴らしいじゃありませんの。使わないならいらない、ではなく、使わないなら何よりだ、で剣を置いたらいいのではないかしら。それでアデルも安心するでしょうし」


 母の口添えにより、アデルの望みは叶った。襲われて反撃したとして、相手の息の根を止められるとは思っていない。時間をとらせることで賊が諦めてくれたらいいな、くらいだ。





「女性と剣を交えるのは、気が進みませんか」


アデルから質問すると、カペルは「え」と小さく声にした。


「思い違いでしたら、すみません」

「――そうですね。僕は剣を苦手としています。でも、今日のアデルさんの剣を見て、美しさに心惹かれました。長剣の技を他にもたくさんご存知でしょう?」


 それはまあ、技の種類だけなら豊富に習った。実用性のあるものからないものまで。


「ぜひまた、手合わせ願えませんか」


どう断ろうかと思う端から侍従長が。


「フレデリック様が、剣に興味をお持ちになるとは……。お嬢様、どうかよろしくお願いいたします」


これは、断りづらい。

「実用性がなくてよければ」


 カペルより先に侍従長が大きく頭を下げ、アデルは慌ててしまった。それほどのことではない。



「女性でも自分に剣を向ける強さではなく、相手に向ける強さを持つべきだと思います」


 小さな声が聞こえた。カペル君の言うのは「貴婦人たるもの辱めを受けるくらいならば、潔く自害すべき」という教えのことか。


「辱め」に耐えて心身共に傷ついても生きる道を選ぶべきか、殺される覚悟で暴れるか。アデルの答えは日によってぶれる。

でもきっと暴れずにはいられないと思う。



 暴れるといえば。

「お姉ちゃま! オデットのお姉ちゃまはどこですかっ」


 ほら、来た。そろそろだと思っていた。

ブラッスール家の聞かん坊の声が廊下に響き、カペルとアデル、侍従長までもが笑った。


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