カペル家のお茶会でアデル暴れる・8
侍従長が水の入ったグラスを小卓に置きながらアデルに尋ねる。
「剣をたしなむご令嬢はいらっしゃいましょうが、珍しい流派とお見受けいたしました。不勉強で恐縮ですが、流派を伺っても?」
「習ったのは剣術の先生ではないんです。古流を研究しておられる方が以前近所にお住まいで、親類が通い詰めていたものですから、私も一緒に」
いくつかの古流があわさったものだ、と侍従長に説明する。
通い詰めていたのはマルセルだ。魔術を人に向けないのは決まりだが、剣に魔力をまとわせるのは可不可のはっきりしない部分。
それもあって、凝り性のマルセルは当時剣に熱中していた。
「今もたまに練習しますが、遊び程度です。習ったのは『この技からこの技へ』と技の連携の仕方で、私は決まった型を繰り出すだけなので、実戦的ではありません」
であるからこその余興、と種明かしをする。アデルの連携技は、関節が柔軟であるという特性を活かしたものなので、マルセルにもできない。
「でも美しかった」
呟くカペルは、遠慮しているのかアデルに背を向けたまま。
「動きが美しいのは全力ではないから。余力があれば姿勢を意識できます。全力でかかっても美しいのが本物の剣士だと思います。私では命のやり取りは無理ですね」
もう汗は拭き終えたから、こちらを向いても大丈夫だと分かるように、あえて音をたてて空になったグラスを小卓に戻す。
「フレデリック様も、お水を」
侍従長の声に、カペルがこちらを向いた。
「女性には長剣は重いのに、なぜ長剣にされたのですか」
「刺突用の剣も習熟度は似たようなものですが、誤ってケガをする確率が高いので。両刃の短剣は、技を披露したくなかったから」
カペルの表情から、理由を考えているのだとわかる。内緒にすることでもないので、続ける。
「屋内で長剣を振り回す機会は、まずありません。狭い場所で使い勝手のいいのは短剣ですよね。私の攻撃パターンは幾種類かしかないので、手の内を知られると私の勝ち目が減じます。あまり見せたくないんです」
カペル君が家に押し入る心配はしていない。が、どこで誰が見ているかわからない。短剣技は隠すことにした。




