カペル家のお茶会でアデル暴れる・7
この剣取り技が成功するのは、刃が潰してあるから。
そして意図を察してカペル君が驚きつつも、簡単に握りをほどいてくれたから。
技のやり方を頭で理解し「コツは剣の平を掴むこと」と心得ていても、真剣では怖くてできない。少しずれたら、薄い手袋一枚すぐに切れてしまう。
自分程度では、実戦で成功させられるとは露ほども思わないけれど、余興には面白い。
男子が女子に負けては面目丸つぶれでも、これなら型の披露と変わらない。見物人は主催者が客に花を持たせたと取るだろう。
アデルは剣を二本抱え、顎を軽く引く挨拶をカペルと交わす。
「参りました」
「ありがとうございました」
「勝った! お姉ちゃまが勝ちました! 」
パチパチと追従するまばらな拍手は、お手並み拝見ムードから、良い方向へと変化したと取ってよいのか。
「お姉ちゃま、カッコいい!!」
オデットの声援は嬉しさ全開。放っておくと何を言い出すかわからない。
叱ろうとするアデルを察したらしく、カペルがやんわりと止めた。
「いいと思います。本日の失礼はいき過ぎでした」
「それで、負けてくださったんですか」
アデルの視線を真っすぐに受け止めたカペルの暖色の瞳は澄んでいる。
「いいえ。動きにくい服装を理由に断ることもできたのに、そうしなかったアデルさんへの敬意を表したつもりです」
「稽古着でもないのに」と言うが、アデルからすれば、一般人が実生活において剣を使う場面で防具を身につけているなんて、正直ないと思う。最近ではたまの稽古も普段着のままでしている。
「お部屋に濡れ布巾などご用意いたしました。さっぱりされてはいかがでしょう」
従僕が控えめに声をかけた。
「皆さんは?」
「気分を変えていただく頃合いかと、別の応接室へご案内いたしました」
彼は上級使用人の長らしい。玄関から案内してくれたのもこの方。
装らない部屋に通され、首筋に濡れ布巾をあてると、ヒンヤリと心地良い。
カペル君と侍従長――アデルの見解――しかいないから、口に出してまで叱りはしないだろうと、襟元をくつろげて布巾で胸の汗を落ち着かせる。
視線を意識したほうが負け。アデルが腕も拭くつもりで袖をたくし上げると。
「布巾を替えます」
新しい布巾が供された。
「お水も汲みたてです。冷たいうちに」
「ありがとうございます」
使用人には身体を見られても恥ずかしくはない、それが貴族の考え。アデルが腕や足くらい恥ずかしくないのは「働いてたら出るよね、そんなとこ」という考えだ。