カペル家のお茶会でアデル暴れる・6
挑発された令息が小鼻を膨らまして応じようとするのを止めたのは、カペルだった。
「当家の集まりで余興となれば、僕がお相手を務めるべきでしょう。どのような剣を用いますか」
カペルの整った顔を眺めながら、アデルは時間をかけて考えた。急上昇した「やってやるぜ」気分も、その間に多少は落ち着く。
「長剣を」
重さのある剣は女の身では扱いにくいと誰もが思ったのだろう、声にはならない驚きがテーブルに広がる。
「やっちゃえ! お姉ちゃまっ」
お世話になってばかりのカペル君をやっちゃったら駄目でしょう。
でも余興というなら派手にしなくちゃね、アデルはオデットに向けて今日一番の笑顔を作った。
木剣を扱ったことがないので、刃を潰した長剣をお借りする。練習用の長剣でも幾種類もあるのは、さすがと言うべきか。なかには年代物で価値のありそうな剣まで交じっている。いわれなど聞いてみたいところだ。
皆に移動して見てもらうほどのものでもない。一戦交えるのは、今座っているテーブルから見えるテラスでいい、となった。
ルールはお任せすると言われたので、いくつか提案する。
技を三つ出しそれで終了、アデルが攻めカペルが受けとなるがカペルが反撃に出ても構わない、剣があたっても不問とする。カペルはすべてに同意した。
アデルの左足を前にし両手で剣を背中に担いだ構えは変則的なもの。対してカペルは攻撃と防御の両方に優れるとされる基本的な構えをとった。
珍しい構えに男子が身を乗り出したのが横目に入る。
呼吸を合わせて切りかかるのはアデルだ。頭上で剣を水平に旋回させて相手の頭部と肩を狙う。
突き技は刺殺力は高いが、突かれてからもしばらく動けるから、相討ちになる確率が高くなる。それより頭なり腕なりを傷つけて動きを封じるか、戦意を失わせるほうがいい。
なぜ変則的な構えを取ったか。剣の次の動きを相手が予測しにくいことがひとつ。もうひとつは華麗さ。見物人の視線を意識した。
見慣れないはずの技に惑わされることなく、カペルがブロックする。
ここで突きにはいるのがよくある流れだが、それではつまらない。
上方からの切り下ろしは想定外だったのだろう、カペルの反応が一瞬遅れたが、鍔の部分で見事にアデルの剣を止めた。
アデルは動きを止めることなく柄から左手を離し、自分とカペルの剣両方を掴んだ。すかさず右手を器用に動かして柄頭を右上方に引き上げ、剣を奪った。
アデルの手には二本の剣、カペルの手にはなにもない。「返して」と両腕を伸ばしたような形は、少し滑稽でもある。
これではもう剣の勝負にならない。