カペル家のお茶会でアデル暴れる・5
「よかったらアデルさんのことを皆に教えてくれないかな」
「お姉ちゃまのことを?」
穏やかかつ熱意のこもった口調で言うカペルに、オデットは疑いの眼を向けた。
「知らないことから誤解がうまれると思うので。『クラスが違うと接点も少ない』なんて言い訳にもならないけれど、僕も知りたい」
「お姉ちゃまのいいところを」
これ、オデット。カペル君は「いいところ」とは言っていません。お話を都合よく作り変えてはダメ。
でも、あれもダメこれもダメと言っては「束縛」と認識されてしまうのか、と心配になるアデルは、先ほどの令嬢の発言がちょっとした傷になったのだと自覚した。
気を取り直すのがとても早いオデットは、もう乗り気。
「お姉ちゃまは、きれいで優しくてお勉強もできます!」
「魔術は使えないんだっけ? 体が弱くて」
欠点を即座に指摘する令息からは、悪意が感じられる。そんなことをすればオデットに火がつき、カペル君が苦慮するに決まっているのに、なんとも子供っぽい。
「それがどうした、です! お姉ちゃまは剣が得意です! 魔術は人に向けちゃいけないから、悪い人をやっつけられなくて意味ないけど、剣は人に向けるものなので、役に立つのは魔術なんかより剣です!」
得意といえるほどではなく、悪人なら切りつけていいという法律はもちろん無い。アデルにとっては突っ込み所だらけの発言である。
「へぇ。そんなに言うなら、お相手願いたいね」
挑発的な視線が向く先はオデットではなくアデル。とんだとばっちりだと、迷惑そうにしてしまっても仕方がないと思う。
「負けません、お姉ちゃまは強いのです! お姉ちゃま、見せてあげてくださいっ」
「嫌」
「ええ――!?」
驚きのあまり叫んだオデットが、可愛い口を手で押さえる。
「口だけですか」
ぼそりと聞こえた一言に、アデルの眉がつり上がる。
――なんですって?
これまでの人生――前世――での短絡的な思考を反省し、アデルと呼ばれる身では、おとなしくしていた。が、こういう態度を取られることを昔は「なめられる」と言った。
お貴族的な言い回しは知らないが、いい加減はっきりさせた方がいいかもしれない。なめられて黙っている女ではない、と。
アデルは「相手にしないのが一番」と育てられたが、コリンヌの時は「やられたらやり返せ」だった。
「『余興』という形でよろしければ。練習用の剣をお借りできますか。お相手はどなた?」
言い出したお前が務めるんだろうな?
「口だけ」発言の令息を挑発するように、アデルは尊大なまでに顎を上げた。