カペル家のお茶会でアデル暴れる・4
どれだけ勢いよく立ったんだ、誰。と思ったら、顔を赤くして目を吊り上げたオデットが、だん!と床を踏み鳴らした。
模様の美しい寄せ木の床に傷がついてしまう。ヒヤリとする姉の気持ちなど忖度しないのがオデット。
「お姉ちゃまを悪くいうのはゆるしませんっ」
いきなり何を言い出すのか。
「オデット」
呼んで目顔で「いけません」と伝える。
「お姉ちゃまは束縛してくれません。今だって、みんながいなかったらお膝に乗せてくれるのに。乗りたいのをずっとずうっとガマンしているのに」
口を閉じるよう伝えたのに無視された。
オデットご覧なさい、皆さんを。「呆気にとられた顔というのはこれですよ、勉強になりましたね」との気持ちを込めて再び呼ぶ。
「オデット」
憤然としたオデットは聞く耳を持たない。。
「お菓子がおいしくてわいわいで楽しいって聞いたのに、お姉ちゃまを悪くいうなら少しも楽しくない! 早くお家に帰りたい」
力いっぱいの意思表示は、反抗期のせいなんじゃないかな。これは我が家の総意ではなく、オデットひとりの意見であると表明すべき。
アデルは歳上らしく諭すことにした。
「オデット。言いたいことを言っていいのは、家のなかだけ。人様のお宅で本音を明かしてはなりません。教えたはずだけれど、忘れてしまった? ああ、年齢的なものかしら、こちらにお集まりのどなたにもまだ難しいようだものね。皮肉や当てこすりに便利な『婉曲表現』というものがあります。裏の意味を知る仲間だけで笑ったり、意味を真に理解せず間違った対応をとったヒトを、こっそり笑いものにする淑女には絶対に必要な会話術です。それを使いなさい」
誰も口を開かないならと、続ける。
「社交に必要な会話術の身についていない妹は、皆さまの集まりに加えていただくには早すぎたようです。今後は出席を控えますので、どうか本日の無礼をお許しください」
同級生もメイドも指一本動かさない。婉曲に言えと言っておきながらこの上なく率直にもの申したアデルにも、これ以上言いたいことはない。
沈黙の中、カペルが静かに立ちオデットの後ろにある倒れた椅子を起こした。
「どうぞ」と着席をすすめる。そして、自分は立ったままアデルに丁寧に一礼した。
「配慮の不足を、お詫びします。不愉快な思いをさせてしまった僕こそ、お客様をお招きする立場にはまだ未熟でした。恥じ入るばかりです」
オデットのせいでカペル君に謝らせてしまった。アデルも立ちあがり、彼より少しだけ深く頭をさげた。
「こちらこそ、お騒がせしてしまいお詫びの言葉もありません」
さあ、オデットを連れて帰りましょう、そうしましょう。オデットに目配せすれば、頬を膨らませたまま。
「お姉ちゃまは、悪くない!」
――ああ、もうこの子は。




