カペル家のお茶会でアデル暴れる・3
「お姉様がいけないっておっしゃるの?」
「お姉様もお召し上がりにならない?」
眉根を寄せて心配そうにする令嬢方。
「ほら、思うところがあるんじゃないかな」
令息のひとりが思わせぶりに隣席の友人に耳打ちする。ヒソヒソ話を装っていても、アデルにまで届く声の大きさだ。意図的なものに決まっている。
「フレデリックとなにかあるの?」
「フレデリック君じゃなくて家同士がね。僕も聞いた話だけど、今はちょっと……後で教える」
彼以外はカペル家とブラッスール家の経緯を知らないらしく、顔に疑問と好奇心が浮かぶ。あんなに思わせぶりにされたら、誰だって気になる。
カペル家とブラッスール家が同席すると、いらぬ興味をひいてしまうから、今日の集まりも気が進まなかったのに。
もちろん菓子に何か仕込まれているなんてかけらも思っていない。食べないオデットの前で食べるのが悪いかと控えていただけで。
「では、私がいただきます」
パイを手で折ると小気味よい音がたち、まんべんなくついていた砂糖が飛んだ。
お砂糖がもったいない。反射的に指で集めそうになって、かろうじて止める。
びっくりするほど薄く軽く美味しい。顔にでたらしく、食べる姿を熱心に見つめていたオデットが、にっこりを通り越してにんまりとする。
一口食べたら止まらなくなったアデルは次々に菓子を口に運んだ。
こんなお菓子を毎日食べられるような大人になりたいと思いながら一皿を瞬く間に空にし、紅茶まで一気に飲み干した。
――母の手作り菓子も美味しいけれど、レベルが違う。
これだけの食べっぷりを見せたのだ、ご満足いただけただろう。開き直ったアデルがオデットを真似てにんまりとすると、テーブルに白けた空気が流れたから、社交は難しい。
気を取り直したように、再び令嬢がオデットに話しかける。
「ずっと気にかかっておりましたの、勇気をふり絞ってお尋ねしますわ。オデットさんがお姉様のご機嫌ばかり気にしていらっしゃるのは、束縛されているからではありませんの?」
オデットの目がこの上なく大きくなった。
「今日だってお姉様がついていらっしゃるなんて。同級生の集まりですのに」
別の令嬢も加勢する。
学校とは違いここぞとばかりに華やかに装い、紅に彩られた唇から出る言葉には嘲笑が含まれているように感じられる。
一年遅れでしか入学できなかった落ちこぼれのお姉様、と。
きちんとした教育を受けて育ったご令嬢とは、もっと婉曲な物言いをするものだと思っていた。
自分が主催者ならともかく、招待された会で同じように招待された客を貶める会話は避けるべき。
求められるのは当たり障りのない無難なおしゃべりです。
「お姉様」と呼ばれる身としては、教えて差し上げるのが親切というものだろうか。無言平静を貫くアデルの頭のなかは、とても忙しかった。
ガタン! 椅子を蹴る音、続けて倒れた椅子が床にひどくあたる音が部屋に響いた。