カペル家のお茶会でアデル暴れる・2
「見て! お姉ちゃまとおそろいです」
今度は何を言い出すの。アデルは目をむいた。オデットが得意げに両手でつまんでいるのはスカート。
ケーキの箱をお渡しして手が空いてしまったのが敗因……
「とても可愛い服ですね」
カペルのお世辞を――とアデルは思う――真に受けたオデットが、嬉しそうに打ち明ける。
「お母さまが作ってくれたの。お姉ちゃまとお揃いなの」
それはひと目でわかるから、二度も言わなくていいの。ほら見なさい、後ろに控える皆さんも笑いを噛み殺している。
アデルは既に帰りたくなっていた。
「今日は何人お集まりですか」
まだ客を迎えるフレデリック・カペルにかわって案内してくれるお仕着せ姿の男性に、当たり障りのない質問をする。
「十五人ほどでございます。フレデリック様のご友人をお招きした気軽な集まりですので、準備もそのように」
それとなく教えてくれるのは、だからマナーがなっていなくても大丈夫という意味だろう。
オデットが自由人であることは、既に露見してしまっている。
「それにしても奇遇でございますね。ブラッスール家のご令嬢とフレデリック様が同級生とは。今後ともよきお付き合いのほど、お願い申し上げます」
立派な大人に丁寧に言われた時の返し方を、とっさには思いつかない。頭の中で文章を構築している間に、オデットがぴょんと飛び跳ねた。
「はい! カペル君とよきお付き合いをずっとします」
あぁあ。血の気が引きそうになるアデルと違い、男性は少し振り返ると目元を和らげて微笑した。
招かれたうちで、アデルだけクラスが異なる。元の話を知っていることが前提の会話は、誰のことを言っているのかすら不明なまま進んでいく。
令嬢が率先して話題を提供し令息が追う形なので、主催者であるカペルが内心気にしていたとしても、流れを変えるのは難しい。
それにオデットが日頃どのように級友と話しているかを知る良い機会だとアデルは考えているので、実のところ内容はどうでもいい。
会話が途切れた一瞬、令嬢が不思議でならないというように頬に指を添えた。
「オデットさん、お召し上がりになりませんの? 先ほどから少しも」
私も気がついていた、と隣の令嬢も同意する。
皆、適度に菓子が減っているのに、オデットのお皿は手つかずのまま。
オデットがちらりとアデルを見る。
「いただいていいのよ、オデット」
アデルのいつになく優しい声音に、オデットは唇をきゅっと結び首を横に振る。
咎めるような視線が一斉にアデルに集まった。




