カペル家のお茶会でアデル暴れる・1
母の仕立てた服は若草色だった。上品ではあるが少し野暮ったい色。デザインは二枚そっくり同じ、つまりお揃いだ。
「お姉ちゃまとお揃い!」
「そんなに喜んでくれて嬉しいわ」
手を叩いてはしゃぐオデットに母が目を細める。
「お揃いというなら、制服だってお揃いじゃない」
「アデルは素直じゃないんだから」
どこまでも前向きにとらえる母。幼子ならともかくこの歳で同じ服を着て、人生初のお茶会に行くことになるなんて。
始まる前から終わった気がするし、行く前から帰りたい。アデルは「ふう」とひと息吐いた。
カペル邸はアデル達の住む地区よりひとつ高級とされる地区にある。アデルの家は馬車通りから狭い前庭を挟んですぐに建物だが、カペル邸は守衛のいる門を馬車で通り、手入れのされた庭をぬけようやく館だ。
この規模のお宅だと年間維持費はおいくらだろう。下宿人を置いてどうにかこうにか家を維持している我が家とは大違い。
アデルの所感をよそに、オデットはわくわくした気持ちを前面に出し大事そうに膝上の箱を抱えている。
中身は母手製のキャロットケーキ。味は保証するけれど、お茶会に持参するのに相応しいかといえば疑問だ。
そのあたり、仲の良い友人は皆平民である母の常識に少しズレがある。
馬車がエントランスに着くと、フレデリック・カペルの出迎えを受けた。
「飛び降りないのよ、オデット。カペル君が手を出してくれたら、ちょこんと乗せて降りなさい。ぐっと体重をかけてはいけません」
口早に注意する。今日はお客ではなくオデットの付き添いと心得ている。騒ぎをおこさず済めば、それ以上の望みはない。
「ようこそお越しくださいました、ブラッスール嬢。お迎えできますことは、この上ない喜びです」
子爵家の茶会に伯爵家から出向く。序列からみて、順当なご挨拶だ。
「カペル君! 呼んでくれてありがとう」
長いはずの口上が一行ですんでしまい、後ろに控える使用人の皆さんは驚いたと思われるが、表情の変化はない。取り繕うのも今さら。
「先日は、大変お世話になりました」
オデットに続いて降りたアデルも飾るのはやめた。
「はい、これ。お母さまのケーキ。すっごくおいしいの」
「ありがとう」
恭しい手つきでオデットから箱を受け取るカペル君は「本日お客様にお出しすべきか」と考えているに違いない。
アデルは急いで口を挟んだ。
「母は菓子作りを趣味としておりますが、ここのところ素朴な菓子に注目しておりまして。晴れがましいお席向けのものではございませんので、裏方の皆さんでどうぞ。素人の味ですが、我が家は好んで食しています」
それにしても、言い訳ってどうしてこんなに長々となってしまうのだろう。




