カペル、個性強めの姉妹に戸惑う・3
「俺のことはジェラールと呼んでくれ。アデルちゃんもそうだから」
気さくに言うジェラール・ルグランに「では僕はフレデリックと」と言いかけて「長いから呼ばない」とのオデットの発言を思い出し、カペルは口をつぐんだ。
ジェラールの乗ってきた馬車はふたり乗りなので、カペル家の馬車で姉妹を送ることになった。
手を繋いで歩く姉妹の後ろを、ジェラールと歩く。
「何が出たんですか」
「ムカデ。ムカデは初めてじゃないが、まあまあデカくてちょい怯んだな」
ざっくばらんに打ち明ける。それでも火魔術を駆使して退けたのだから、素晴らしい。
「さすがですね」
「いや、運が良かった。もう一度と言われてもできる気はしない」
見た目に似合わない謙遜ぶりが、かえって実力を感じさせる。
「あとは、あのままでいいんですか」
「夜が明けたら、うちから誰か回収に来る。処分費用は行政が負担する取り決めを交わしてる」
それにしても、とジェラールがカペルを見た。
「オデットちゃんがずいぶん懐いてるな。俺は今回の件で決定的に嫌われた」
仕方なさそうに笑う。今まで話す機会はなかったが、おおらかな人柄であるらしかった。
「彼女はお姉さんが好きなので」
「アデルちゃんはカッコいいから」
かわいいではなく? たしかに凛々しく綺麗な人ではあるが。
「惚れるわ」
呟きに思わず横目に見ると、ニヤリと見返すジェラールこそ男女問わず人気がありそうに思える。
「坊っちゃんには分かんねえ良さかもな」
肩をポンッと叩かれて、つんのめりかけたが、嫌な感じはしない。
「でもホント、追ってきてくれて助かった。オデットちゃんが来たらアデルちゃんの回復が早い気がする」
なにかの比喩だろうか。カペルは内心首をひねった。それともオデットの言う「姉妹ならみんなそう」なのか。
ふと聞いてみる気になった。
「先輩のお宅では、オオトカゲの駆除もなさいますか」
「オオトカゲ? ウチじゃねえな。害獣は害獣の業者がいる。必要なら紹介する」
「いえ、そこまでは。伺ってみただけなので」
「そうか」
少し考える風にして。
「三メートルくらいなら、やってやれねえこともないか」
難しい顔で天を仰ぐ。
「害獣業者でもオオトカゲを相手にした奴は聞いたことねえな。……俺としては、ちいとやってみたい気はするが」
「なにかあれば遠慮なく言ってくれ。今日の借りは必ず返す」
ジェラールは涼やかな目をして、そう約束した。