カペル、個性強めの姉妹に戸惑う・2
「お姉ちゃまの『自分だけの大事な場所』を触ってる! やっぱり変な男の人!!」
オデットはワナワナと肩を震わせたかと思うと、指先に光の球を作り出した。
「えいっ! えいえい、えいっ!」
掛け声と共に投げつける。
「いて! 意外に痛いなこれ。悪かった、謝るからやめてくれ」
フレデリック・カペルが夕暮れのなか目をこらすと、地面に横たわったアデル・ブラッスールと、半身を起こし手の甲を押さえる男の姿があった。
魔術を人に向けるのは、いけないこととされる。
些細なものとはいえオデットの躊躇なき攻撃は、カペルにとって驚きだ。
薄明でも顔の判別はつく。オデットの言う「変な男の人」は、上級生のルグランだった。
ルグランの名は知られている。害虫に悩まされた時、依頼可能な業者は何軒もあるが「ウチではちょっと」となった時の最後の砦がルグランだ。
ということは、この異臭は。喉に込み上げるものをカペルはぐっと飲み下した。
ルグランを蹴飛ばす勢いでオデットが「お姉ちゃま」に飛びのって抱きつく。
「ちょっとオデット、乗らないで起こしてくれたらいいんじゃない?」
まともだ。
「お姉ちゃま! 私から離れちゃダメです! 攻撃担当は私です、変な男の人をやっつけますか」
「やめなさい、オデット。変な男の人じゃなくてジェラール・ルグラン先輩。教えたでしょう」
妹の額をコツリとしてたしなめる。
「先輩はお姉ちゃまを助けてくれたのよ」
「お姉ちゃまを誘拐しなかったら、こんなことにはなりませんでした」
「誘拐なんてあなた、聞こえの悪い。でも、たまにマトモな事を言うと、驚いちゃうわね」
「俺だってこんなことになると知ってりゃ、誘ったりしねえよ。何にせよ悪いのは俺だ、言い訳のしようもない」
よいしょ、と妹を抱えたまま起き上がるアデルにルグランが手を貸すと「お姉ちゃまに触るの禁止」と、オデットが警戒心丸出しで指先に光の球を作る。
「わかった、わかったって。オデットちゃん」
降参だと顔の横で両手のひらを見せるルグランが不意に顔を横へ向け、カペルと視線が交わった。
「オデットちゃんをここまで連れて来てくれたのか。ありがとうな」
「誰だか知らないが」と目が語る。
「オデットさんの同級生のカペルです」
「カペル君?」
オデットを膝の上にのせたまま、アデルが斜めに振り返る。
カペルはざっと全身を眺めた。ふたりともケガがなさそうで何よりだ。
害虫駆除は通常複数人であたる。装備もなくしかも一般人を連れてひとりで退治するとは、さすがはルグランだとカペルには思われた。
「駄目じゃないの、オデット。カペル君にご迷惑をかけて」
「仲良しだからいいって」
しれっと返すオデットに、アデルは呆れ、ルグランとカペルは笑った。