カペル、個性強めの姉妹に戸惑う・1
オデット・ブラッスールが道をまったく知らないということに、馬車が走り出してすぐにフレデリック・カペルは気がついた。
「あっちです」
ぴしっと指さす方向へ直進できるわけがない。間には建物があるのだから。でも、オデットはそんなことお構いなしに頬を不服そうに膨らませる。
「カペル君! こっち向きじゃなくて、あっちです! 別の所へ連れて行こうとしています!」
彼女の言う通りにしようと思うと、鳥のように飛ぶしかない。残念ながら、そんな魔術はない。
「お姉さんの居場所が分かるのは、魔術?」
なにを言っているのかという風に、小首をかしげて。
「妹ならみんなそう」
いや、それはおかしい。否定しようとして、カペルはブラッスール家の馭者の疲労の色濃い顔を思い出した。
彼女に説明するのは骨が折れそうだ。
「カペル君はオデットと呼んでいいです。お姉ちゃまを『お姉ちゃま』と呼ぶことも特別にゆるしてあげます。お茶会に呼ばれた私はカペル君の仲良しなので」
いきなりで戸惑うけれど、彼女の好意であることは間違いない。
「ありがとう、僕のこともフレデリックと――」
「呼ばない。長いもん」
最後まで聞く前から断られた。真面目くさったオデットの顔つきがおかしくて、カペルは白い歯をみせて笑った。
焦れるオデットをなだめてなだめて着いた先は、自然公園だった。馬車での進入が可能な所まで行き降りたのは、日没間近。もう一時間もしないうちに真っ暗になる。
貴族が集う中央公園に比べると自然公園は寂れた雰囲気が漂う。時間が遅いのもあって、辺りに人影はなかった。
馬車が停まると同時に、馭者を待たずに自分で扉を開けたオデットが、文字通り飛び降りる。
「行こう! カペル君!!」
「待って!」
前傾姿勢で走り出すオデットを見失ったら、探せない。それにしても、女の子とは思えないほどの俊足。カペルは必死に後を追った。
嗅ぎ慣れない臭いが徐々に強くなる。これは近寄らないほうがいいと思っても、小柄な同級生が膝裏が見えるほどスカートを跳ね上げて突っ込んでいく以上、行くしかない。
焦げ臭さに顔をしかめたくなる頃、オデットの大声が響いた。
「お姉ちゃまっっ」




