ジェラール先輩のお誘いは事件・4
過去と違うのは、困った状況でも「玉」絡みではないこと。ジェラールは男前の部類だが優男ではない。よってここで私が命を落とすことはない、アデルはそう判断した。
「剣があったら、役にたちますか」
「――ないよりは。斧槍だと最高だね」
斧槍。形状がわからないが、槍の先が斧の形だと思えばいいのか。それならムカデと多少距離がとれる。
「その斧槍が火をまとっていたとして、万一、積もった落ち葉に引火した場合、先輩の力で消せますか」
「俺は水魔術を得手としてる。ここは水辺だから、まず間違いなく消火できる」
質問の意図を尋ねることなく返答してくれるから、やりやすい。アデルの腹は決まった。
「先輩、もうひとつ。秘密は守れますか」
「秘密を守れるかどうかは分からねえが、女の子との約束を破ったことはないね」
それで充分。
「では、私の秘密を守ると約束してください。これに関して一切の質問もなしです。――出しましょうか、お好みの武器」
さすがにジェラールが首だけひねってアデルの顔を見た。申し出が冗談ではないと、ひと目で理解したらしい。
ムカデの足がぞわりと動くのを横目に見て顔を戻す。
ムカデはおとなしくしているのではなく、こっちの出方を窺っていたのかもしれない。体が大きいと知恵もまわるのか。
「先輩、手をお借りします。ムカデから目は離さなくていいので」
アデルは隣に移動してジェラールの右手を取り、自分の胸に押し当てた。
「お!?」
こっちを見そうになるから「ムカデ!牽制!!」と小声で警告する。
「ここ、触って分かりますか。硬いところがありますよね? 頭に欲しい武器を出来る限り具体的に思い浮かべながら、真上に引いてください。蜂蜜スプーンを持ち上げるように。徐々に重さが増しますから、気を付けて」
胸の谷間の少し上にある丸いしこりに触れさせるということは、当然他の柔らかい部分にも手はあたる。
何も感じないと言えば嘘になるけれど、そんなことを言っている場合じゃない。
それに精度を高めるために、マルセルと数え切れないほど繰り返したから、慣れてはいる。今も胸の先端を指が掠めて腰がぞくっとしたのは「ここも腕も同じ皮膚で皮は一枚。気にしない気にしない」と言い聞かせてお終い。
「いきます」
アデルも集中してジェラールの手首を両手で掴み、胸から天に向けて引き上げた。
細く白い輝きが太さと量感を増し、剣を形作る。両手を伸ばせるだけ伸ばして胸から出たのは、長い肉厚の剣だった。斧槍じゃないじゃないの、ちょっと見てみたかったのに。
叩き斬ることを考えて、馴染みのある武器にしたのかもしれない。
抜ききったところでアデルは手を離した。