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フレデリック・カペル巻き添えをくう

 フレデリック・カペルにとって、オデット・ブラッスールは自分より歳下に思える同級生。


 学業が人より少し得意だからといって他の分野まで秀でているかと考えた時、フレデリックは返答に窮する。吹き飛ばしたのが、オデット・ブラッスールだった。


 同級生と比べて明らかに言動が幼く、ひとりだけ違っていることも多いのに本人は自信満々。


 そして、それがそのまま受け入れられているのは、フレデリックにとって驚きだった。



 理知的で落ち着いている姉アデルのほうが、逆に悪口の対象になっているのも理解できない。


 ひとつしか歳が変わらないのに飛び級入学生としてもてはやされる自分、小柄だと可愛いと誉められ、一年遅れの入学で弾かれる。不可解だと思いながら、いつものように馬車の待機所へと行くと、いつもとは違う光景に出くわした。



「お姉ちゃまは、どこ? お姉ちゃまがいないなんて、おかしい!!」


 先ほど地図を大事そうに鞄にしまって「お姉ちゃまが待っているから」とスカートを翻して駆けていったオデットが、唇を尖らせて人の良さそうな馭者に詰め寄っている。


「ちょっとしたお出かけです。寄り道のようなものですから、先にお家に着いているかもしれませんよ。帰ってお家で待ちましょう」


 懸命になだめる馭者は、じぃっじいぃっと見つめられて、居心地が悪そうに視線を逸らせた。


「まさか、まさかまさか、まさか。ヘンな男の人と一緒とか」


 

 フレデリックが自家用馬車に乗るには、横を通らなくてはならない。聞くつもりはなくても、オデットの「ヘンな男の人」は耳に入る。


 立ち止まり会話の途切れるのを待っていると、救いを求めるように辺りを見回す馭者と視線が交錯した。


 どなたでも結構です、なんとか取りなしてくださいませんか。という気持ちが伝わる。



「どうかしましたか、ブラッスールさん」


 努めて静かに呼びかけると、オデットが跳ねるように振り向いた。


「カペル君! お姉ちゃまがヘンな男の人にさらわれました!」



 驚いて馭者を見れば、力なく首を横に振る。彼女は誤解をしているらしい。


「変な人ではないのでは」

「坊っちゃんじゃないセンパイです!」


 余計に分かりづらい。馭者は「お任せしました」とばかりに半眼になっている。



「ブラッスールさんは、どうしたいの?」

「お姉ちゃまを助けに行きます。なぜならお姉ちゃまは私がいないと、なにもできないから!」



 行かなくても、アデルさんはきっと普通に帰宅する。馭者の諦めきった遠い目を見れば分かることだ。

そして下校途中に手助けがいるような事態が生じるとは考えにくい。


 でも、オデットが「お姉ちゃま」に関してはとても頑固であると、フレデリックはこの短時間に理解した。ならば気の済むようにするしかない。



「行き先は分かりますか」

「はいっ」


 小さな鼻をくんくんと鳴らすのは、そのまま犬。女の子にこんな失礼な感想を抱くのは初めてのことだ。



 フレデリックが名乗り、カペル家の馬車で行き責任を持ってオデットさんをお送りすると告げると、馭者は拝むように礼を言った。


「早く行こ! カペル君!」


 無邪気に言い放つオデットの後ろで、ブラッスール家の馭者は深く頭を垂れていた。


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