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前前前世の恋 私がコリンヌだった時・3

「明後日。明後日の夜、家に行ってもいい? コリンヌ。このまま別れるなんて、できない」


 恥ずかしいことに、ゴクリと喉を鳴らしてしまった。それって、それってどういう?

ますます顔が上げられなくなったコリンヌを、ファビアンが体を屈めて覗くようにする。


「俺を見て、コリンヌ。どうしても一緒に夜を過ごしたい。コリンヌは同じ気持ちじゃない?」



幸せが頭のてっぺんから足先まで貫いた。


「私も。私もよ。門は十時に閉めるの。私の家は城壁の内側を穿ったような造りで、夜は誰も訪ねて来ないわ。十時少し過ぎに門に来て」


 朝の五時に開けるまでは誰も門を通れない決まりだ。とは言うものの、目立たない所に小さなくぐり戸があり音を立てずに開閉できる。

 コリンヌの家のなかを通らないと村へは行けないので、誰にも利用させないし村人も心得ている。


「ありがとう、コリンヌ。もう今から楽しみだ」

「ファビアンったら、おおげさね。たいしたおもてなしもできませんけど」


彼はまばゆいほどの笑顔を浮かべた。








 夜に会うというだけで、コリンヌの気分は高揚した。彼のために父の蒸留酒を拝借する。父はどうせたくさん飲むのだから、少し減ったところで気が付かないのに決まっている。拝借と言いながら、もちろん返すつもりはない。


「酒なんて久しぶりに飲むよ」


ファビアンはとても喜んでくれた。



 話すだけのつもりがキスをしていて、いつの間にか服を脱いでいた……と言うのは嘘。

ファビアンの熱っぽい視線に煽られて、ずいぶん大胆な行動をしたという自覚がある。


 コリンヌの粗末なベッドは軋みっぱなしだったけれど、気にならなかった。壊れなくてなによりだ。




 汗ばんだファビアンの胸に頬を寄せるコリンヌもまた汗をかいていた。張り付いた髪を耳にかけてくれながら、ファビアンがコリンヌの唇に触れる。


「ごめん、歯があたったかな。血が滲んでる」


ほら、と指先についた血を見せるとペロリと舐める。


「やだ、舐めないで。たぶん、自分で噛んだんだと思うわ」


 あまりの痛さに悲鳴をあげそうになり我慢するのが大変で、とは言えない。

「もう、済んだんでしょ」と聞いて「ごめん、まだ先しか入ってない」と申し訳なさそうにされた時には「やっぱり止めよう」と口から出かけた。


 相手がファビアンじゃなければ、絶対に止めてもらったと思う。

 でも途中で止めなくて良かった。「親密な行為」って心の距離がぐんと縮まるみたい。それもコリンヌが今夜初めて知ったことのひとつ。



「ごめん。なんて言うか……、良くなかったでしょう? 私」


 コリンヌが小声で謝ったのは、こっそりと見たファビアンが時々辛そうな顔をしていたから。

初めての私が相手では満足するに至っていないだろうと考えた。


彼が目を見張った時、カタリと階下で物音がした。


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