続 オデットとカペル君
「もっと誉めて」とおねだり顔をされても、まったく誉められた話じゃない。
父の苦い顔を見て、母は「あらあら」と困っている。
「お断――」
「こっちからせがんでおいて、断れるはずもないだろう」
「お断りしましょうか」と言おうとした私を遮ったのは父だった。「それこそ失礼の極み、そんなことも分からないのか」と言いたげなのは、八つ当たりに近い。
だいたいお前がちゃんとオデットをみていないから……と、監督責任まで問われかねない。
ここはおとなしくしておこう。アデルは申し訳なさそうな顔つきを作った。
これまでお茶会なんて興味もなかったのに、どうして。それが不思議だ。
「でも、オデットはお菓子もほんの少し食べるだけでしょう?」
「お姉ちゃまは、おいしいものが好きだから。かわいいものは私でお腹いっぱいだけど」
理由はまさかの、お姉ちゃまのため。澄んだ目を向けられては、続けようと思っていたお小言は口にし辛い。
母がのんびりとした雰囲気で。
「いいじゃないの。ちょうど服も縫い上がったところよ。晴れのお席で着てもらえば、私も嬉しいわ」
お母様が縫った服を着ていけ、と。母の縫う服は流行に左右されないのがいいところであり……年頃の娘としては難しいところ。
「おでかけ、おでかけ」
喜んでアデルの膝の上で頭をぐりぐりするオデットに、父のため息がおちた。
「お誘いしてよかったですか」
物思いに耽っていたアデルに、カペルが心配そうにする。
「はいっ! お誘いしてよかったです!」
アデルより先に元気いっぱいに答えたオデットは、挙手までしている。その手を力ずくで体側に戻して、アデルは愛想笑いを浮かべた。
「いつも愚妹がお世話になります。躾が行き届かずお恥ずかしい限りです。目にあまるところは、どうぞ遠慮なくお叱りくださいね」
ぐいっと目をむいたアデルに気圧された様子で思わず頷いたカペルが、小さく笑った。
「オデットさんは誰とでも自然に仲良くなるので、クラスの人気者なんです」
私を安心させようとお世辞まで言ってくださるとは、若いのによくできたお人――感心することしきりのアデル。
「カペル君、行こ。お姉ちゃま、また後でね。絶対ぜったい帰りも一緒よ」
「はいはい」
念を押すオデットは、誉められたことが嬉しくて妙な勢いがついたらしい。カペルの手をぎゅっと握っている。
外ではよく姉と手を繋いでいるから、間違えてしまったのだろう。とっさに引きかけた手を我慢してそのままにしてくれるあたり、カペル君は優しい。
「お姉さんと仲がいいんだね」
「大大大好き。お姉ちゃまはキレイで優しくて、私のことがかわいくてしかたないの」
いや待て、後半が特におかしい。本当に都合がいいんだから。
アデルは笑いが堪えきれず片手で口元を隠し、話しながら去っていくふたりの背中を見送った。




