オデットとカペル君
昼休みの終わりにマルセルのところからオデットを「回収」して教室へ行く途中、フレデリック・カペルを見つけたのはオデットが先だった。
「カペル君!」
屈託なく呼ぶ。他人がいようがおかまいなしの振る舞いにアデルは内心ヒヤリとしながらも、そろそろ皆、「オデットはこういう子」と諦めてくれたであろうことを願う。
「ブラッスールさん、次の授業は先生のご都合で教室が変わりました」
わずかに安堵した気配を漂わせたカペルは、オデットの後ろにいたアデルに目礼した。
お昼の時間を級友と過ごさないオデットを探してくれていたのだと思い当たり、いつも行き先も告げずに出ていることを申し訳なく感じる。
「じゃあカペル君、一緒に行こう」
オデットが嬉しそうにするが、そうではない。
「オデット、カペル君はわざわざ伝えに来てくださったのです。まずはお礼」
「ありがとう! カペル君」
ご迷惑をおかけしました、と謝るアデルと違いニコニコしているオデットにつられたかのように、カペルの表情がやわらぐ。
それを見て、言うなら今だとアデルは切り出した。
「姉のアデルです。こんなところですみません、ご自宅で開かれるお茶会にお招きいただいたと、オデットから聞きました。クラスの違う私まで、よかったのでしょうか。妹が無理を言ったと存じておりますが」
カペルは数秒、間をおいて浅く頷いた。
「ぜひ遊びにいらしてください。お誘いしてはかえってお困りになるかと余計な気をまわしてしまって……僕のほうこそ、すみません」
後半になるにつれ小声になる。「余計な気」とはあれだ、曽祖父の代の賭けをウチが根に持っているかもしれないと思ってくれたのだ。
ご推察通り、父はいまだに少しわだかまりを持っている。
一昨日、オデットがアデルに背中を擦りつけながら「お姉ちゃま、カペル君ちのお茶会に行きましょう」と言い出した時には、父はなんとも形容しがたい表情になった。
「オデット、話が全然みえないわ。お茶会っていうのはね、行きたい人が行けるものじゃないのよ。仲良しさんしかお呼ばれしないの」
オデットは仲良しさんじゃないでしょう? と少し距離を取れば、瞬時に埋められた。ピタリとくっついてアデルを見つめる。
「してもらいました!」
得意げに鼻をひつくかせる。
「招待『してくれた』ではなく『してもらった』なの?」
細かな点を指摘する母に、オデットが意気込む。
「はい! 他のお友達を誘っていたから、何をして遊ぶのかを聞いたのです。そうしたらカペル君ちで、お菓子を食べてお茶を飲んでわいわいするって」
嫌な予感に無言となるアデルを「怒らないのよ」と母が牽制する。
「いつの何時かを教えてもらいました! お姉ちゃまも一緒だとお伝えしました」
オデットや、それは誘われたとはいわないの。誘われてもないのに押しかける、というのですよ。




