頑張るオデットの陰にお姉ちゃまあり・3
そんなにお盛んで妻ひとりでたりるだろうか。あまりに貪られては妻も腰がひけて「お願いだから他にもいいヒトを作って」なんてお願いしちゃうかもしれない。
アデルが勝手にジェラールの未来を面白おかしく想像していると。
「俺の背中で寛いでくれるとは、嬉しいね」
嫌味なく言ってのけて、保健室のベッドに降ろしてくれた。無人なのは養護教諭も競技場につめているから。
「アデルちゃんに助手先生との仲を聞くほど無粋でもないが……ちとあからさま過ぎないか」
上掛けの裾をなおしてくれながら、チクリと言われた。はとこ、家庭教師であると説明すべきかと思う一方で、学年も違い付き合いがそうないのだからわざわざ言わなくても、という気もする。
ジェラールが隣のベッドに腰掛けた。
「オデットちゃんは可愛い顔をして凄腕だな。加減のなさにも恐れ入った」
いかにも感心したように言われては、笑うしかない。誉められたと思っていいのだろうか、これは。
「あれだけの速さで正確に当てられるヤツはなかなかいない。卒業したら、ウチで欲しいくらいだ」
本気で言っているように聞こえる。まじまじと見つめるアデルに、笑いかける。
「そうしてると、やっぱり姉妹だな。オデットちゃんとよく似てる。女のコは虫を見るのも嫌がるしキレイな仕事でもないが、就職先として頭の隅にでも置いといてくれないか。ウチでふたり揃って引き受けたい」
虫が怖くて農家がやれるか――現在は農家ではありません――、今でも茶色の虫が家に出たら、即座に片付けるのはアデル。そもそもオデットには虫が怖いという感覚がない。
お給金によっては、害虫駆除も選択肢のひとつかもしれない。
「高く評価してくださってありがとうございます」
まだ先の話だ。
「少し眠ったほうがいい。無理なら目を閉じるだけでも違う」
言ったジェラールも、腰掛けていたベッドに仰向けになる。
競技場から出るのをマルセル先生は見ていたはずだから「お姉ちゃまがいない」とオデットが騒がないよう、計らってくれたはず。
一番になったことを真っ先に伝えたいお姉ちゃまがいなくて、むくれるオデットが見えるようで、アデルはふふっと笑った。
「笑う元気がありゃいい」
穏やかなジェラールの声を聞きながら目を閉じた。