頑張るオデットの陰にお姉ちゃまあり・2
続けて「オデット・ブラッスールさんがこれまでの記録を大幅に更新しました」と発表される。静かだった生徒はどっと湧き、急に騒がしくなった。
どうにか魔力は底をつかなくて済んだようだ。マルセルに何事か説明を受けるオデットは、疲れも見せずケロッとしている。
一方アデルは安心して気が緩んだせいか、視界が狭まり暗くなった。これは魔力をひどく消耗した時に出る症状のひとつかもしれない。倒れるほどではないと冷静に判断し、天地が分らなくなる前にしゃがむべきかどうか迷っていると。
腰から脇腹にしっかりとした腕がまわり、アデルを支えた。
「貧血か? 俺の腕に体重をかけて」
「先輩」
「大丈夫か、アデルちゃん。って、その顔色じゃ大丈夫なわけねぇか」
支えているのは訓練着姿のジェラールだった。制服でなくともどことなく着崩して見えるのは、いかにも彼っぽい。
「体が弱いってのは、本当らしいな」
どうやら三年生にまで、私が虚弱だと浸透したらしい。オデットに魔力をわけなければ、いたって健康体であるのは言うまでもないことだが、他人には言えない。
アデルは答えずにすませた。
「今のうちなら、俺と離脱してもそう目立たないと思うが、どうする。助手先生がこっちを気にしてる、気ぃ遣うって言うなら、座れるもんを取ってくる。その間自力で立てるか?」
「一教師と生徒のひとり」という関係ではないと見抜くあたり、なかなか鋭い。選択をこちらに任せるのも見事な配慮だ。感じ入りながら、アデルが聞く。
「先輩、好みのタイプをお聞きしたいのですが」
「すぐにヤらせてくれる子」
なぜそんな質問をと聞き返すことなく即答されて、笑った。清々しいほどわかりやすい。それなら私は非該当だから安心。
「どこか座り込んでも目立たない場所まで、連れて行ってください」
「承知」
あと数組で「的当て」は終了。一年女子のうちでも一番小柄なオデットが首位を守れるのかに注目が集まり、誰の視線もアデルへは向いていない。
アデルはジェラールの助けを借りて、競技場を後にした。
保健室へ行くまでもないと言い張っても、ジェラールは譲らなかった。
「タラタラ歩いていられるか」と、背中に負われた。絶句はしても抵抗はしなかった。
人ひとり背中に乗せているとは思えないほど颯爽と大股で歩くから、かかる時間は半分だ。
これに関しては優しいというより、合理的なのかもしれない。
頼りがいがあって、こんな人と結婚したら安心して暮らせそう……でも好みのタイプは「すぐヤらせてくれる女」




