頑張るオデットの陰にお姉ちゃまあり・1
一月に入学して、四月。初めての全校生徒参加の行事は魔法訓練だ。
魔力自体は誰もが持っているが、知力や体力のように個人差が大きい。それに、使い方を知っているか、適切な訓練を受けたかどうかで、さらに差がつく。
アデルなら「魔力は持っているけれど体力がないので使いこなせない」ということになる。今日も見学だ。
魔力を駆使できないことで、お姉ちゃまが同級生から軽んじられていると気がついてしまったオデットは「お姉ちゃまのぶんまで、私が頑張っていいトコ見せる!」と張り切っていた。
正直アデルには不安しかない。
「これは遠慮じゃないの、本当にほんっとうに普通にやってね。それが一番ありがたいのよ」
伝えてはみたけれど、わかってくれたかどうかが心もとない。
本日の仕上げに行われるいくつかの競技形式の訓練のうち、オデットが参加するのは「的当て」。
離れた位置に置かれた的に、魔法で作り出した水球か光球を何球当てられるかを競うもの。
時間制限があるので、魔力消費量の多いオデットでも魔力的疲労に陥ることもないだろうと、マルセルと相談して決めた。
ルールも簡単でオデットでも理解しやすい。なんて考えは甘かった。
「球! 球! 球! 球!」
オデットの高い声が愛らしく響く。楽しくて仕方がない時の声だ。
光の球に高い光度は必要ないのに、直視不可能なほどの眩しい球を作り信じられない速さで投げ続ける。
応援していた同級生も驚き過ぎたのか、逆に静まってしまった。
「やっぱり『球』とは相性がいいのかしら」と呟くアデルの声が審判まで聞こえそうだ。
そのタイミングで、審判をしていたマルセルが緊張感を漲らせ、アデルに目配せを寄越す。
あと残り十五秒「オデットが極度の魔力的疲労でふらふらになる可能性がある」と伝えてきた。子供なら失神を伴うと聞く。
――まずい。アデルは今いる場所からオデットに魔力供給を開始した。
魔力を人に分け与える技術を持つ人は、少ない。直接触れて渡すのが最も効率がいいのだが、オデット相手なら離れていても問題ない。
それもこれも普段からアデルがオデットに魔力をじゃぶじゃぶ渡しているからだ。
が、送るはしから放出されるのは初めてのことで、送る量よりオデットから放たれる魔力の方が多い。
量を増加させなければ、オデットの魔力が枯渇する。最後まで競技を続けなければ失格だ。
あんなに楽しそうにしているのに失格では可哀想。アデルは今までにないほどの力を発揮した。
目がくらむ。こっちが先に倒れそうだと眉間にシワを寄せた時。
「やめ」
マルセルの声が響いた。