夜にひそかに訪ねる相手
マルセルに大笑いされて、アデルは「笑えない」と抗議した。
「ぜったいお姉ちゃまと寝る」と言い張るオデットは就寝時刻が早い。一緒に寝るフリをして、すぐまたアデルだけ起きて、マルセルの部屋を訪ねた。
と言ってもマルセルの部屋はアデルのひとつ下の階。十年以上前からブラッスール家に下宿していて、子守り兼家庭教師をするかわりに下宿代はとっていない。
「ごめんごめん。堅実な男性を探しているアデルが、よりによってルグランと縁ができたと聞いて、おかしくて」
「そんなに女たらしなの?」
教師の間でも名が轟くほど。
「そう悪く言うものでもないよ」
マルセルによれば、ジェラールは外見に見合ったきっぷの良さで、女子だけでなく男子からも人気があるらしい。
女好きなのもマイナスと取られず、むしろ男子にはそこが尊敬されているというから、アデルの理解を超える。
あっちこっちに手を出すなんて、揉め事のタネにしかならないと思うのに。
「アデルに目をつけるとは、ルグランは意外に見る目があるのかもしれない」
「そういうの、いいから」
からかう歳上のはとこに、しかめっ面を向ける。
「面倒見のいいところがあるから、アデルが少し浮いているのを察知して、放っておけないと思ったのかもしれないね」
「好きで群れからはぐれているのよ、先生」
クラスで浮いているのではなく、自分から距離をとっているのだと強めに否定する。マルセルは包みこむような笑顔をみせた。
「アデルの強さは知っているから、何の心配もしていない。オデットはどう? 僕は日々成長を感じるけれど」
良いことを聞いてくれました。今夜はその相談にきたのだ。
「失言がひどいの。人前に出せないわ」
歳の近い女の子同士でいる時は大丈夫なのに、それに教師や男子が加わるとおかしなことになる。
「能力は充分なのに、使いどころが違うのか」
マルセルが腕組みして唸る。知恵を貸してもらわないと、アデルひとりでできることは限られる。
時々オデットが丁寧な口調になるのは、飛び級入学したカペル君の影響だろう。
ひとつ下なので侮られまいとしてか、常にきゅっと唇を結び難しい顔をしている印象がある。
言動の幼いオデットには、遠慮がちに親切にしてくれるらしい。「優しい男にご用心」がアデルのモットーだとしても、カペル家の優秀なご子息がうちのオデットを好きになるはずはないので、ただ有り難いだけの話だ。
「昼休みはオデットを僕のところに連れておいで。色々と教えてみるよ。その方がアデルもゆっくり食べられるだろうから」
「ありがとう、お兄ちゃま」
「どういたしまして、小さなアデルお嬢さん」
ふと思いついて子供の頃の呼び方をするアデルに返されたのは、懐かしい呼び名だった。
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先は長いですが、サクサク読めます
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