ジェラール・ルグラン先輩・3
ここまでさっぱりしていると好ましい性分に思えるから、不思議。
アデルがそう思っている隣で、オデットはじっとジェラールを見つめたままでいる。
質問されていると思い出したジェラールが頷く。
「稼業は害虫駆除だ」
「がいちゅうくじょ」
「大物専門のな。人より大きいのが、うちにまわってくる」
オデットが興味津々であるのがわかったのだろう。丁寧に説明してくれる。害獣駆除は知っていても害虫駆除はアデルも初耳だ。
「突然変異ででっかく育ったヤツだ。古い家に住みついてたり、森にいたり」
「巨大害虫の話は、伝説かと思ってました」
「『自分ちにいました』って言いふらしたい話でもないからな。たいていは『内密に』と言ってくる」
そういう事か。世の中にはアデルの知らない職業が山ほどあるのだろう。
「ジェラール君は坊っちゃんですか」
「――オデット」
黙っていなさいと言ったでしょう。
アデルが睨むと、慌てて口を押さえて「なにも言ってません」という顔を作るけれど、意味がない。
ジェラールが顔をほころばせる。
「坊っちゃんじゃねえな。もちろん平民だ。どう稼いでも金は金、価値は変わらない。兄貴は専門学校へは通わなかったから、ひとりくらい行っとけば別ルートから仕事の話が来るんじゃないかと、俺が通ってるってわけだ」
親の所得により学費が違うのが、この学校。収入が少なくても貴族子弟は通いやすく、平民でも親が高所得なら多額の学費を払う。だから学内では身分に関係なく過ごせ、貴族に低頭しなくていい。
金は力なり、だ。
「そういや、アデルちゃんちに空き部屋はある?」
唐突にジェラールが聞いた。
「今は、二部屋ほど。それがなにか」
「家には、いつも誰かしらいるし、空き教室も美人姉妹にかち合っちまうから、逢い引き用に借りるのもアリと思って」
え、うちに女の子を連れ込みあれやこれやですって?
予想外の話にぎょっとするアデルの服を、オデットがつんつんと引く。
「あいびきって何ですか、お姉ちゃま」
「それは――」
親切にも説明してくれようとするジェラールを目で制したアデルは、急いで妹の耳を塞いだ。




