前前前世の恋 私がコリンヌだった時・2
初めてあった時には「綺麗な娘さんがひとりでこんな所にいるなんて、不用心だ」と驚かれ、「羊は勝手に食べるから」とコリンヌが洗濯をしている間、近くにいて話しながら何くれとなく世話をやいてくれた。
困るのはファビアンがいると、彼の目が気になって下着が洗えないこと。
最近はついでに彼の服を洗ってあげたりもする。
「いいよ」と遠慮するけれど、コリンヌが洗いたいのだ。今日なんて着ているシャツまで脱がせて洗った。
明るい日差しを浴びて気持ち良さそうにする彼の肩や背中に薄く傷跡が残る。
じっと見ているコリンヌに気がついて「これ? 牛の角にひっかけられた」と笑う。
「痛くないの?」
「その時は痛かったけど、油断した俺が悪い。仲間はこれくらいのケガ、みんなしてるよ」
「牧童も大変ね」
「今は羊ばかりだから、心配いらない」
こぼれる白い歯に、コリンヌの胸が高鳴る。そしてすぐに落ち込む。
「いつ……行くの?」
「近々」
手慰みに千切った草をファビアンが風に散らした。
「一緒に来る? コリンヌ」
軽々しく言ってくれるものだ。彼が真顔に見えても、真意は分からない。だって慣れないことだから。
「冗談言わないで。私は村を離れられない」
毎日のように会ううちに、門番の娘であると伝えると、ファビアンは父に会ったことがあると言った。
この辺りで羊を放牧するなら、村長への挨拶がいる。
寝泊まりは城壁の外にある空き家。門番に顔を見せておくこと。それが条件だった。
「お父さんのいない時に会えないかな。その……夜とか」
少し照れたように、でも熱っぽく見つめられてコリンヌは呼吸を忘れた。
少し離れた街に、数か月に一度医者が巡回診療に来る。村ではそれに合わせて馬車を仕立て、持病持ちが集まって出かける。二日で帰る時もあれば三日かかる時もある。
父は胃弱で毎回胃薬をもらいに行っており、明後日発つ予定。その間父のかわりに門を開閉するのはコリンヌだ。
家を空けることはできない。でも来てもらうのなら――。
迷うコリンヌを励ますように、ファビアンが手を握る。彼と手をつなぐのは初めて。
「コリンヌ」
呼ばれて、目を伏せた。ドキドキが指先から伝わるのではないかとさえ思う。
「……父は明後日から二日間、村を離れるの。お医者様に薬をもらいに行くから」