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逢い引きの邪魔者

 昼食の時間は「お姉ちゃまと絶対一緒」なオデットと空き教室に行くけれど、今日はマルセルがオデットに用があるというので、これ幸いとアデルはひとりの時間を楽しむことにした。


 オデットの大好き順位一番はアデルお姉ちゃま、大差をつけての二位がマルセルお兄ちゃまなのだそう。



 鍵のかかっていない無人教室で思いつくのは美術室。オデットと何度か昼休みに行ったが、ひとに会ったことはない。

画集や胸像が置いてあるから、眺めていれば時間も潰せる。アデルはのんびりした気分で美術室へと向かった。








 画集は部屋の奥、棚の下段にある。体を屈めて選んでいると、会話をしながら一組の男女が入ってきた。

 親密な雰囲気が漂う。あちらも人がいない部屋を狙ってここへ来たらしい。


 時間を惜しむかのように睦言めいた一言二言を交わすと、覗かなくてもわかる、口づけを始めた。


 少し迷ったせいで「ここに人がいますよ」とアピールするタイミングを完全に失ったアデルは、口を押さえてできる限り体を縮めた。


 が、甘い吐息が耳を刺激するにつれ押さえる場所を間違えたと気付く。口じゃなくて、耳、耳。

こそこそと背中を向け、両手の平を耳に押しつける。



 名前でも呼び合われて、私が知ってしまったら一大事。貴族の娘は結婚するまでは貞節を守らねばならない。他人様のすることに口出しするつもりはないとアデルが思っていても、誰かに見られたと知ったら女の子は気が気でないはずだ。


 教師と生徒なら、それはそれで問題。早く去ってくれと一心に祈った。







 誰かが肩を叩く。終わったのかとアデルは目を開けた。どうせ見えない位置にいるから目を瞑らなくてもいいようなものだけれど、耳を塞ぐついでに閉じておいた。


 また、とんとん。一度叩かれたらわかりますよ。首をひねって斜め後ろを見上げると、男子生徒が興味深そうに見下ろしていた。


 学校指定のネクタイが青色だから三年生。襟元のボタンがひとつ外れタイの結びもルーズなのは、ま、色々なさっていたからだろう。追求するのは野暮というもの。


そんなに時間は経っていないと思うのに、意外に早かったのね。


「もう、すんだんですか」

立ち上がりながら尋ねた。


「いやいや、人がいるところでする趣味は……俺はよくても女の子はイヤだろうよ」

少し呆れ気味に返された。


「一応お伝えしますが、何も見ていませんし聞いてもいません」

「それは、わかってる」

 

 アデルより頭ひとつ以上背が高い。男子としても大きい方で、同級生と比べるとずいぶん大人っぽく、品のない言い方をすれば男の色気がある。



 なんとなく気がつかれているような気はした。ただ知らんぷりで出ていくと思ったから、この展開は予想外。


 上手く女の子だけを先に戻らせたらしい彼の瞳は紺色で、髪はアイスブルー。目を引く組み合せでも、魔力は高くない。


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