恋はいつでも前途多難・3
最終回です
「アデルちゃんのほうは、どうなってんだよ」
「私?」
「カペル君とか、ルグラン先生とか。新しい出会いとか」
「私の通ってるのは女子校ですよ」
「女子校の子と付き合ってたことあるぜ、俺」
ジェラール先輩なら、そうでしょうね。
「新しい出会いはありませんし、聞いて面白い話はありませんよ。そうして欲しいと言われたので、私は保留です」
「保留? お姉ちゃまは保留?」
オデットがピンと耳を立てる。ジェラールが「しまった」という顔になる。
「オデットも保留です!!」
保留がなにかも分かっていないくせに、胸をはっちゃって。ジェラール先輩にダメージを与えるのが上手。
「うっ、やられたあ」
「自打に近いのでは」
ばたりと背もたれに身を投げるジェラールに、オデットの目が輝く。
「カチカチ先輩! 今、カチカチを持ってきます。すぐ待っていてください!」
言うが早いか部屋を飛び出していく。どうせ聞いていないけれど、訂正する。
「『すぐ待って』じゃなくて『少し待って』よ」
「オデットちゃん、ここまでカチカチ持って来てるのか」
当然だ。外出にバッグは持って出なくてもケースに入れた火ばさみは忘れない、それがオデットだ。
そして「剣劇ごっこ」をしてもらえると思ったのだろう。
オデットが大きくなったせいで、ごっこの域を越えていて付き合うのが大変。オデットを彼女にしたいのなら、今後はジェラール先輩が担うべきところ。
オデットはもう戻ってきた。
「お姉ちゃま、勝ち抜き戦です!」
「えええ、私もやるの?」
「はいです!」
「じゃあ、箒を持ってきて」
またオデットが部屋を飛び出していく。しまった、長い箒は止めてと言い忘れた。母に叱られてしまう。
ジェラールが部屋を見回して尋ねる。
「俺の武器は?」
「そのへんの薪でいいんじゃないですか」
「――薪」
そうそう。先輩にはどうしても言っておきたいことがあった。
「先輩、オデットと付き合うにあたりひとつお願いがあります」
「おう」
選んだ薪を片手にしたジェラールが、真っ直ぐにアデルを見つめる。
「カチカチは振り回すものでなく挟むものだ、と理解させてください。私からは以上です」
わざとらしい真顔を作るアデルが扉に視線を向けると、足音を響かせて駆け戻ったオデットが勇ましく言い放つ。
「カチカチ先輩、お覚悟! えい!」
戦いの幕が切られた。
ジェラール先輩は防戦一方になるに違いないのに、受けて立つ姿勢を取る。
「いきなりとは卑怯な。姫といえども容赦はしないぜ。俺が勝ったら、いうことをきいてもらおうか」
「絶対にカチカチ先輩が負けるので、お約束してあげます! えいっ」
さて、私は様子見といきますか。アデルは投げ渡された柄の長い箒を床に立てて、なりゆきを見守ることにした。
これにて、アデルとオデットの物語はおしまいです。
長いお話を読んでくださり、ありがとうございました。
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