アデル語り
門番の娘コリンヌ、床磨きのコゼット、農婦のシャンタル。そして今がアデル。
アデルとして成長するまで、前世持ちとは気がつかなかった。
シャンタルだった時、コリンヌとコゼットを思い出しはしなかったと思う。
素人考えだけれど、玉を飲み込んだことで、過去の記憶を我がものとしたのだろう。
コリンヌとコゼットは、玉を実際に目にすることがなかった。シャンタルが飲み込みアデルの体におそらく今もある玉と、お珠様、宝珠が同じものかどうかは分からない。
少し「魔法球(仮称)伝説」について調べた。
「かつてここにあった」「今も祀られている」「御領主家に代々伝えられている」「秘宝とされ人前に出すことは禁じられている」等々、真偽の定かではない話がいたるところにあり、確かめようもない状況だった。
珍しい物なのかそうでないのか、もうアデルには分からない。
よそから来た「明るく親切な」男性にくらっときて、知らなかったとはいえ村の宝を盗む片棒を担ぎ、優しい美青年神官に片想いして濡れ衣をきせられそうになり。
夫の留守中に素性不明の若者を家に入れてしまい、あげく焦って玉を飲み込むという……ありえなさ。
美男子に舞い上がって毎度ロクなことがない、アデルはしみじみとした。
思うに、見目の良い男に惚れやすく暴走しがちな性格は、簡単には治らない。
そして魔法球が体内にあるせいで、常人の何倍もの魔力を持つこととなった。
体内にあると知られれば、取り出そうと狙う悪者がいるかもしれない。
というわけで、魔力の感知能力に長けた人を誤魔化そうと、アデルからオデットに魔力を分配して消費させ、常人レベルに下げている。
父に言わせれば「子供の頃から小賢しいところのある」アデルは、体内に魔法球があることを家族にも教えていない。
両親にすればアデルとオデットは「魔力を膨大に持つ娘と魔力消費量膨大な娘」だ。
長生きがよいばかりとは思わないけれど、自分を愛してくれない男のために命をかけるのは、もうたくさん。恋に理性を失うくらいなら人を愛さずに生きると決めた。
愛だの恋だのとは別の視点で人柄をよくよく見定め、「お姉ちゃまがいないと生きていけない」と言い張る妹ごと引き受けてくれる相手がいたら、結婚を考える。
――そんな都合の良い人がいるかどうか、一番の問題はそこ。それより、長く続けられる職につくほうがまだ現実的かもしれない。
「終了時刻だ」
マルセルの声で、物思いから覚めたアデルの目に、
「お姉ちゃま――」
全力で駆けてくるオデットが映った。