恋はいつでも前途多難・1
でも、でもね。期待させておいて永遠のお預けはむごい。
ここは姉としてしっかりと真実を伝えねばならない、とアデルは決意した。
「ジェラール先輩」
呼びかけたものの、続く言葉が出ない。
「ん?」
どうしたと怪訝そうにされて、アデルは呼吸を整えて切り出した。
「世の中には、男子専用のお人形さんがあるらしいですね」
ますます訳が分からないという顔つきに、焦りが生まれる。
「生き人形にも、そういったリクエストはあるそうで、人形師さんからぼやっとお話は聞きました。でもオデットにそういうのはいらないと思ったし、なんというか生々しい感じが嫌で、私の一存で――」
「ちょい待て、待て」
アデル以上に焦った様子のジェラールが、突き出した両手を振って止める。
まだ途中ですけど。ひとまず口をつぐむと、ジェラールがふうと大きく息を吐いた。
「なんてこと言うんだ!」
――叱られた。
「先輩とその部分は切り離せないと思って」
「――どの部分だよ。なにを言い出すかと思ったら……誰かが聞いてたらどうすんだ、俺の死活問題だぜ」
焦らせやがって、という感じに額の汗を拭う仕草をすると、ジェラールはあらためてきっぱりと言った。
「そんなん、どうでもいい。オデットちゃんがいいんだよ、オデットちゃんじゃなきゃダメなんだ」
とおっしゃっても。
「長い目で見ますと、そういった部分は重要ではないでしょうか。先輩の場合、特に」
「だから! なんで俺限定にするんだよ。カペル君だって、あんな綺麗な顔してても一皮むけばおんなじ事考えてるぜ、男なんてみんな」
アデルの眉が吊り上がる。
「どうして、ここでカペル君が出てくるんですか。それに、カペル君は淫らな考えは持ちませんから! ジェラール先輩と違って」
「ああ、ああ、分かってねえな。カペル君は頭ん中で夜な夜なアデルちゃんの服をひん剥いてると思うね、俺は。賭けてもいい」
「なんですって?」
ファビアンならともかく、上品なカペル君はそんなこといたしません。
アデルとジェラールの声は次第に大きくなる。
「お姉ちゃま、カチカチ先輩が悪いですか。やっつけますか」
話し声で目が覚めたのか。トコトコと現れたオデットが言い、アデルにぴったりと身を寄せる。アデルの安楽椅子の肘掛けに座る形だ。
「そりゃないぜ、オデットちゃん」
両手の平を上に向け情けない声を出すジェラールに見向きもせず「ちょっとやっつけたいな」と期待を込めてアデルの指示を待つオデットは、お姉ちゃま一途だ。
姉の恋愛下手を引き継いだオデットの恋愛感情は未発達なので、先輩の道のりは遠いんですよ。