再会して心を決める・1
目覚めは悪くない。目に入った見慣れない天井に、ジェラールは自分がいる場所がどこか分からなかった。
ふと隣の寝台に目をやると、女の子が仰向けに寝ている。お人形のように綺麗な顔立ちだと思ったところで、そういやオデットちゃんはお人形さんだったと気がついた。
仕事明けにそのまま会いに来て。
「まあまあ、ようこそ。アデル、オデット、ルグラン君が来てくれたわよ」
「早いです!」
迎えてくれたブラッスール夫人の呼びかけに応えて、いい勢いでオデットが階段を駆け下りて来た。
そんなに急ぐと……予想通り足を滑らせて前のめりで落ちてくる。
ジェラールはブラッスール夫人を背中にかばうようにして、オデットを受け止めた。
「オデット、気をつけて。人形師さんが足を理想的な長さにしてしまったから、バランスが悪くてまだ慣れませんのよ。もう少し短いほうが楽に動けるんじゃないかしら」
ブラッスール夫人が思案顔で説明する間に、アデルも下りてきた。
「そうよ、私より足が長いなんて」
「お姉ちゃまも伸ばしますか」
「そう都合よく足だけ伸びません」
そこから昼食をいただいて「人形を窓辺に並べたことでオデットも満足したのでお茶の時間まで寝てはどうか」と勧められ、お言葉に甘えたのだった。
寝る時はひとりだったのに、いつの間に。オデットを起こさないよう気をつけて、ジェラールはそっと部屋を出た。
「もうお目覚めですか」
ひとり居間にいたアデルが、本から顔を上げた。
「どれくらい寝てた? 俺」
「まだお茶には少し早いくらいです」
寝癖がついたかもしれない髪を手櫛で直しつつ、手近な椅子に腰掛ける。
「オデットちゃんが寝てた」
「見に行きたいと言ったので、お邪魔しないようにだけ言いきかせて」
微笑む彼女は以前と変わらない。変わったのは自分の心だと、ジェラールは自覚した。本人に言う前にお姉さんに言うのはどうなのか。
でも、お姉ちゃまの了解を取らなければ先に進めない。
「アデルちゃん、俺、オデットちゃんが好きだ」
生身だろうが人形だろうが、好きは好き。口に出すのにはかなりの勇気がいったのに、アデルは平然とした顔のまま。
「はい」
もう少し驚くかと思った。予想外の態度に無言になったジェラールをどうとったのか、アデルが「ああ」という表情になる。
「カペル君のことなら、ご心配なく。オデットは彼女じゃなくなりましたよ」
なにかの拍子に「お姉ちゃまが『彼女』じゃなくなった」と知ったオデットが「私も彼女をやめます! なぜならお姉ちゃまと同じがいいので」と言ったためカペル君に手紙で伝えたと、アデルは説明した。
「そうなんだ。で、俺が言いたいのはそういうことじゃなくて」
ではこういうことかと、アデルが首を傾げる。
「以前のオデットは私の魔力で動いていましたけど、今は自力です」




