あれから一年たった冬に・3
「ええっっ。最低でもお姉ちゃまと私の二個はいります!」
「だめ。ひとつ」
にべもない。
「がっかりです……」
肩を落とす女の子に、買ってやりたいと思う大人はおそらく聞いていた全員。声を掛ける勇気がないだけだ。
ああ、本当に。こんなところで再会するとは思わなかった。
なぜだか喉につかえるものがあって、ジェラールは一度ゴクリとしてから発声した。
「俺が贈ろうか。オデットちゃんとお姉ちゃま、カチカチ先輩のぶんまで」
一歩二歩と近付くと、ふたりは同じタイミングで体を起こす。
「ジェラール先輩!?」
「買ってください!!」
こちらを向いた美人姉妹は、やはりアデルとオデットだった。
顔立ちは違っても驚いた表情はそっくり。
「いいよ、俺は今気分がいいから」
なにしろカペル君より先に俺の名前が出たんだ。
成り行きを見守っていた人々は「良かった良かった。えらそうに言うけど、たいして高くもない人形だから、それ」という雰囲気を漂わせて、それぞれの用事に戻っていく。
オデットはこの上なく嬉しそうな顔でジェラールを見アデルを見と落ち着かない。
お小遣いを減らさなくて済むけれど、それでもお姉ちゃまに止められたらどうしよう、とドキドキしているのだろう。
「ここでダメって言ったら、私が意地悪みたいじゃない。先輩にきちんとお礼を言うのよ」
「はいです! ありがとう、お姉ちゃま!」
ぎゅっと抱きつかれたアデルがよろける。
「オ、オデット! 大きくなったんだから加減してっ」
下がるのは半歩におさめ、踏みとどまって悲鳴をあげる。
「それにお礼を言うのは、ジェラール先輩によ」
オデットがほんの少し反省した顔になる。ふと思い立ち、ジェラールは両手を広げてみた。
「カチカチ先輩! ありがとうございます! いくつまで買ってくれますか」
言いながら勢いよく飛びつかれたけれど、待ち構えていたのでしっかりと抱きとめることができた。
これほど強く女の子に抱きつかれるのは初めてだ。
喜ばれると分かっていても指人形だった時のように放り投げるのは無理。かわりに抱えたままぐるりと回転すると、嬉しそうな声を立てて笑う。
「ジェラール先輩ったら」
アデルの呆れた声を聞きながら、ジェラールはもうひと回転してからオデットを降ろした。




