あれから一年たった冬に・2
これは確かに綺麗な女の子だ。赤みがかった灰色の髪が、真っ白なマントによく映える。
長く濃い睫毛がくるりと上を向く横顔は完璧な美しさだ。
郊外の町にこんなに可愛い子がいるとは。ジェラールと同じく周囲の人々も、つい目で追ってしまっている。
当人はいたって無頓着。
「おじさん、この小さいお人形さんはおじさんが作りましたか?」
「うちは、陶器の人形を家族で作ってるんだ。顔がひとつひとつ違うだろう? 自分や家族に似ている人形を選んで揃えるお客さんも多いんだよ」
「私に似てるのどれですか」
横髪を耳にかけ、陳列台に顔を寄せる。
「お嬢ちゃんほど綺麗な人形は、ないね」
白い手袋をした指を頬に添えて、女の子がうふふと笑う
「私よりお姉ちゃまはもっともっとキレイです!」
――お姉ちゃま?
「おお! そりゃすごいな。美人姉妹か。いいねえ」
「お姉ちゃまに会いたいですか」
「一緒に来てるのかい。ぜひお目にかかりたいもんだ」
店主だけでなく、居合わせてそれとなく話を聞いている人すべてが思ったはず。ジェラールも含めて。
「お姉ちゃま、もう来ます」
鼻を得意げにぴくりとさせると、人混みの向こうから色違いの薄茶色のマントを着た女の子が現れた。
艷やかな灰色の髪に意思の強そうな赤い瞳。
好みは分かれるところだろうが、美人顔ならお姉ちゃま。可愛い顔立ちは妹。
「オデット! ひとりでどこかへ行ってはダメでしょう。お財布も持ってないんだから」
顔立ちに似つかわしいハキハキとした口調。お姉ちゃま、そんなに叱らないであげてと皆が思うに違いない。
「はいです。でもお姉ちゃまがすぐ見つけてくれるので、そんなにダメじゃないです」
上目遣いでにこりとするさまは、まったく懲りない甘えっ子体質丸出し。
さらに叱られる事を心配して、周囲がドキドキしていると。
「もう。またお人形? お人形にお人形を与えるなんて悪趣味だって、お兄ちゃまに笑われるのは私よ」
文句を言いながら、隣に並んで横髪を耳にかけて商品を眺める。
お姉ちゃまは妹に甘々なのだと知れて微笑ましい気持ちで皆が眺めているのを、姉妹は揃って気がつかない。
ジェラールは舞台の一場面をそでから見ているような錯覚におちいっていた。
こんな何もない町にいるわけがない。しかもオデットと呼ばれた女の子は、ジェラールの知るオデットより大人びていて、お姉ちゃまと身長が同じ。何より髪色が違う。
世の中にはよく似た姉妹がいるのかもしれない。
「どれが欲しいの?」
「これとこれとこれと」
「待って。ひとつでいいでしょ」
「お姉ちゃま人形、お兄ちゃま、お母さま、カチカチ先輩、カペル君、お父さま」
「ちょっと多すぎない? 全部同じよ」
姉妹のやり取りに店主が口を挟む。
「よく見て、お姉さん。型じゃなくて手で作ってるから、顔はどれも違うんだよ」
お姉さんは譲らなかった。
「お小遣いの範囲をこえるから、今日はひとつにしなさい」




